第41話 鴨の声

 私と同年に科挙に合格した柯禺峰が御史を務めていた時のこと、彼は内城の友人の家を借りて住んでいた。その書斎の広さは三間ほどあり、東側の一室は紗の帳(とばり)で仕切られ、閉ざされていていたため彼はあえて入ろうとはしなかった。

 彼は表の一室の南側の窓の下に寝床を置いていた。眠りにつき、半夜を回った頃、東の部屋から鴨が鳴くような声が聞こえた。怪しく思った彼はそっと窺い見た。時に月明かりが窓から差し込み辺りを満たしており、そこに黒い煙が一筋、東の部屋の入り口の隙間から延び、地を這うように進んでいた。長さは一丈あまりで、うわばみのようにのたくっている。その頭は女であり、髪はぴしりと整えられていた。頭をもたげて仰ぎ見、身を地面でくねらせ、絶えず鴨の鳴き声をあげていた。禺峰はもとより肝が太く、寝床をバンバンと叩きながら大声でこれを怒鳴りつけた。それは徐々に後退り、隙間から東の部屋に戻っていった。

 夜が明けてから主人にこれを伝えると、彼は「この怪異は古くから居り、数年に一度姿を現すが、人に危害を加えるわけでも、吉凶を告げるわけでもない。」と答えた。ある者はこのように言った。「この家が買われる前のこと、前の主人の妾がこの部屋で死んだらしいが、詳しくは分からない。」



紀昀(清)

『閲微草堂筆記』巻九「如是我聞三」より

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