第35話 叔父の言伝

 四川省の毛公振翧が河間府の同知を務めていた時のこと、同郷の者が暮れ方に山道を歩いていた。雨を避けようと廃廟に入ったところ、すでに先客が居り、軒下に座していた。よくよく見れば、それは彼の亡くなった叔父であった。驚き恐れて逃げようとしたが、叔父は慌てて彼を引き留めて言った。


「お前に伝えたいことがあってここで待っていたのだ。お前に害を為そうとしているわけではないから、怖がらないでくれ。私の死後、お前の叔母はお祖母様の歓心を失ってしまい、いつも理不尽に鞭打たれている。お前の叔母さんは反抗せず従順に受け入れているものの、心中は怨毒で満ち満ちており、人の居ないところで密かに呪いの言葉を吐いている。私は冥土の役所で伍伯(刑を司る役人)をしているのだが、土地神たちからの通報が多く寄せられている。お前に言伝てもらうことで、彼女を戒め改悛させたいのだ。もし改めることを知らずにいれば、恐らく魂が地獄に堕ちてしまうことは免れないだろう。」


 言い終えると姿を消した。彼が帰って叔母にこのことを告げると、そのようなことは無いと頑なに隠したが、恐れ慄き顔色が変わっていて、身の置き場がないようであった。幽鬼の言葉はでたらめではなかったのだ。



紀昀(清)

『閲微草堂筆記』巻二「灤陽消夏錄二」より

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