第33話 胆力自慢

 私が七、八歳の頃、下男の趙平は胆力があることを自慢していたのだが、老僕の施祥が手を振って言った。


「お前、胆力があることを恃みにしてはいけないよ。儂はすでに胆力を恃みにしてえらい目に遭ったのだ。若かりし頃の儂は血気盛んで、某家が凶宅で住もうとする者が誰もいないと聞くと、すぐさま布団を抱えて行き、その家の中で寝た。そろそろ夜も半ばになろうといったところで、バンッという破裂音が聞こえ、天井板が真ん中から裂け、忽ち、人の腕が一本落ちきて、ぴょんぴょんと飛び跳ね、止まらなかった。間もなく、また腕が一本、次は脚が二本、その次は胴体、最後は頭が落ちてきた。それらは部屋を満たし、まるで猿のように飛び跳ねている。儂はたいそう驚き慌ててどうしたらいいか分からなかった。次の瞬間、それらは合わさって一つになった。その身体には刀傷や杖で叩かれた痕があり、腥い血が滴り落ちていた。それは手を伸ばし、真っ直ぐ儂の頸に掴みかかってきた。幸いにも、その時は夏で、涼むために窓を開け放していた。儂は急いで窓から飛び出すと、狂ったように走り、逃れることができた。それからというもの、儂は心胆ともに砕けてしまって、今なお一人で泊まろうとはしない。お前は胆力を恃みにしてやまないから、儂のように逃げることはできないだろうよ。」


 趙平は不服そうに言った。


「爺さんは大間違いをした。何で先にそいつらをふん縛らなかったんだ。そいつらが合体できないようにすればよかったんじゃないか?」


 後日、趙平が夜に酔っ払って帰ったところ、果たして、幽鬼の一群にしてやられ、肥溜めの中に突っ込まれた。ほとんど、頭のてっぺんまで埋まっていたそうだ。


紀昀(清)

『閲微草堂筆記』巻九「如是我聞三」より

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