第31話 財産譲り

 田村の徐四は、農夫である。父親が死に、継母が弟を一人産んだのだが、それが極めて凶悪であった。家には百畝あまりの田があり、財産分けの際、弟が母親を扶養するというのを口実に、十分の八を取ってしまったのだが、徐四は大人しくこれに従った。弟はまたその中でも肥沃で豊かな田を選んだのだが、徐四はこれにも大人しく従った。後に、弟は分け前を全て使い果たし、徐四を強請った。徐四は弟に自分の分け前の田を全て譲り、自ら小作人となって田を耕した。その心中は泰然として、穏やかなものだった。


 ある夜、徐四が隣町から酔っぱらって帰り、途中、棗の林を通りかかると、幽鬼の一群が泥を投げつけているところに遭遇した。彼が震え上がって前に進めないでいると、幽鬼たちはしくしくと啜り泣きながらだんだんと近づいて来る。顔の見えるところまで来たかと思うと、怯えた様子で退き、言った。


「お前はまさか、財産譲りの徐四兄か!」


 たちまちのうちに幽鬼たちは黒煙と化し、四散してしまった。



紀昀(清)

『閲微草堂筆記』巻四「灤陽消夏錄四」より

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