第22話 怨毒

 官吏が下僕の妻に乱暴しても、その罰は減俸にとどまる。何故なら、家庭の中で近しい関係性であるために、曖昧としていて真相をはっきりさせることが難しいからだ。法とは奥深いものであり、誹謗中傷や加害者が被害者を逆恨みするようなことを防いでいるのである。しかしながら、人に横暴を働いたり、脅迫をすると、冥冥の裡に厳しい罰が下されるものなのである。


 戴遂堂先生が言うことには、康熙の末年、とある世家(名門の家柄)の息子が下僕の妻を羽交締めにして乱暴した。夫である下僕は気が塞いで食事も喉を通らなくなってしまった。その時、すでに妻は身籠っており、下僕は死ぬ間際に妻の腹をさすりながら言った。


「男の子かな?女の子かな?俺のために仇を討ってくれるかな?」


 後に、生まれて来たのは女の子だった。長じると、極めて聡明で美しい娘になった。世家の息子はその娘を妾にし、子供が一人生まれたが、文園消渇(糖尿病のような症状)という病を患って、幼くして亡くなった。娘は身持ちがたいそう緩く、ついには裁きの場に引き立てられる事態となり、家名を大いに損なった。十年ばかりのうちに、妻が白装束で棺の中に入り、その娘が青衫(青色の着物。身分が低いことを表す)で裁きを受けた。私はそれらをすべて目の当たりにしたのだが、たった数日隔てただけのように感じた。怨毒が凝り固まって、このような尤物が生まれ報復を成し遂げたのではなかろうか。



紀昀(清)

『閲微草堂筆記』巻七「如是我聞一」より

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