第21話 悪夢

 何励庵先生が言うことには、十三、四歳の頃、父親が官を辞し京城に戻るのに付き従った。船の中は混み合っていて狭く、補助の座席を設え、大きな箱の上で寝ることになった。その晩遅くに、掌でそっと撫で回されるような感覚を覚えた。それは氷のように冷たかった。長いこと魘され、やっとのことで目覚めた。その後、毎夜毎夜同じことが起こった。神経衰弱かと思い、薬を飲むも効果は無かった。ところが、陸に上がった途端、それはぴたりと止んだ。

 後で分かったことだが、その箱は彼の家の下僕のものだった。下僕の母親は官署で亡くなり、(弔いの一環ですぐに埋葬せず)棺に入れて郊外に安置されていた。出発に際して、下僕は密かにその棺を焼き、衣服で遺骨をくるんで箱の中に隠していたのだった。その真上で人が寝ているものだから、魂が安らぐことができないのは最もである。それゆえに怪異を為したのだ。


 このようなことから考えるに、旅先で客死した者の魂がその骨に宿って帰ってくるというのは、確かにあることなのだ。



紀昀(清)

『閲微草堂筆記』巻三「灤陽消夏錄三」より

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