第20話 四十七号
亡父の姚安公が言うことには、雍正庚戌(雍正8年)の会試(中央で行う科挙の二次試験)で、雄県の湯孝廉と同じ試験場になった。湯は夜半に突如、髪を振り乱した女の幽鬼を見た。女は号舎の簾を剥ぎ取り、湯の巻子を手でもってびりびりに引き裂いた。紙片はまるで蝶のようにひらひらと舞った。湯はもとより剛直であり、恐れもせずに座したまま女に問うた。
「前世のことは知らないが、今世で私はまこと人を害するような事をしていない。お主は何故ここに来たのか。」
幽鬼は目を見開いて、後退りながら言った。
「あなたは、四十七号ではないのですか?」
「私は四十九号だ。」と湯は答えた。
そもそも前の二つは空きの号舎であり、幽鬼はそれらを飛ばして数えていなかったのだ。幽鬼はしばらくじっと見つめていたが、お辞儀をして謝罪を述べて去って行った。ほどなくして、四十七号が騒がしくなり、某甲氏が正気を失くしたとのことだった。
この幽鬼はまことに模糊としていて、湯君は思いもよらない災禍を被ることになった。幸いにも彼は内心に恥じることなく、咄嗟に反駁することができたために巻子を一巻分引き裂かれるだけで済んだのだ。そうでなければ危うかったであろう。
紀昀(清)
『閲微草堂筆記』巻二「灤陽消夏錄二」より
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