第16話 麺売りの女

 義母の太夫人の乳母である廖氏が言うことには、滄州の馬落坡に、麺売りを生業とする女がおり、余った麺で姑を養っていた。


 貧乏であったために驢馬を飼うことができず、常に自ら臼を回し、その作業は夜な夜な四鼓(深夜一時〜三時頃)にまで至っていた。


 姑が死んだ後、墓参りから帰る途中で二人の少女と行き合った。二人は微笑みながら女を迎えて言った。


「住むところを同じくして二十年あまりになりますが、少しは見覚えがありませんか?」


 女はたいへん驚き、なんと答えればよいのか分からなかった。二人の少女は言う。


「おばさま、怪しむことはないのですよ。私たち姉妹は二人とも狐なのです。おばさまの孝心に心を動かされ、毎夜おばさまが臼を回すのをお手伝いしていたのです。図らずもそれが天帝のお目に留まることとなり、その功徳を以て正果をお認めいただいたのです。今、おばさまはお姑さまのお世話を最後まで終えられました。私たちもまた、登仙し下界を後にします。謹んでお暇を告げ、並びに我々の登仙にご援助いただいたこと、深く感謝致します。」


 言い終えると、その去り際は一陣の風のごとく、瞬く間に見えなくなった。


 女が家に戻り、再び臼を押してみたが力はほとんど無くなっており、以前のように自ら回すことはできなくなっていた。



紀昀(清)

『閲微草堂筆記』巻三「灤陽消夏錄三」より

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る