第8話 審理

 受長副使(官名)の張は、南皮の出身である。彼が江南の開帰道の役人であった時のこと。夜中に裁判の審理のための調書を読みながら、深く考え込んで独り言を呟いた。


「刀を用いて自らの首を切り落として死ぬ場合、刀痕は入りが重く、出る時には軽くなる。この事件では入りが軽く、出る時が重い。何故だ?」


 すると突如背後から、はぁ……というため息が聞こえ、


「貴殿はなかなかに物事を分かってらっしゃる」と言った。


振り向いたが、誰一人として居なかった。あぁ、と嘆息して彼は言った。


「何ということだ!審理とは、かくも恐ろしいものか!この度は幸いにも過たずにすんだが、別の日に誤ることが無いとどうして保証できよう?」


 しまいには上へ申し出て、病を理由に田舎に帰ってしまった。



紀昀(清)

『閲微草堂筆記』巻二「灤陽消夏錄二」より

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