第7話 繡鸞

 亡くなった義理の母の張太夫人には下女がおり、名を繡鸞といった。


 かつて月夜の晩に堂の前の階段の上で彼女を呼んだ。すると、東西の廊下の両方から繡鸞が駆けてきた。


 姿形から衣服まで一つとして異なる点はなく、右襟の角が反対側に折れ、左袖が半ば捲れているのに至るまで同じであった。


 夫人は大いに驚き、危うくひっくり返るところだった。再び目をやれば、繡鸞は一人になっていた。問えば、西の廊下からやって来たという。


 さらに「東の廊下から来た者を見たか。」と問うと、「見ておりません。」と答えた。


 これは七月のことであり、十一月に入って間もなく張太夫人は亡くなってしまった。恐らくはその運気が尽きかけていたために、妖異が姿を現したのであろう。



紀昀(清)

『閲微草堂筆記』巻三「灤陽消夏錄三」より

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