第6話 同行者

 ウルムチの巡検(巡視の役人)が駐屯している場所を「呼図壁」という。「呼図」は「幽鬼」の訳で、「呼図壁」は「幽鬼が出る」という意味である。


 かつて、ある商人が夜道を歩いていると、暗闇の中、樹の下に人影が見えた。幽鬼ではないかと疑い、呼びかけて尋ねたところ、


「私は日が落ちてからこのあたりに辿り着いたのですが、幽鬼が怖くて進めずにいたのです。同行してくれる人を待っていただけですよ。」


と答えた。そこで連れ立って行くことにした。しだいに、お互い打ち解けてきて、


「何か火急の用があって、こんな夜寒に無理を推して行くのですか?」


とその人が尋ねてきた。商人は


「私は友人に四千銭を借りていたのですが、その友人夫婦が共に病に臥したと聞きました。食べ物や薬が十分ではないかもしれません。なので借りていた金を返しに行くのです。」


と答えた。するとその人は後ずさって樹の後ろに佇みながら言った。


「私は本来あなたに害を為して、ささやかな祭祀を執り行おうと考えていました。今話を聞いて、あなたが誠実で忠に厚い人徳のある人だと分かりました。私はあなたを害すようなことはしません。私に道案内をさせてください。よろしいでしょうか?」


 商人はもうどうしようもなく、ひとまずは彼と道を共にするしかなかった。道中、危険なものや妨げとなるものは全て、幽鬼が予め知らせてくれた。

 その時、にわかに残月がうっすらと昇り、かろうじて物の姿形が見分けられるようになった。

 商人がしかと見れば、それは、頭の無い人であった。彼が震え慄き立ちすくむと、幽鬼もまた、奄然と姿を消した。



紀昀(清)

『閲微草堂筆記』巻八「如是我聞二」より

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