第4話 鶏を喰う娘

 文安の王おばさんは私の母の五番目の妹である。彼女が言うには、まだ自分が嫁ぐ前の時分のこと、ある時、度帆楼(筆者の亡き外祖父が建てた川沿いの楼閣)に座していると、遥か遠く、河畔に船が停まっているのが見えた。


 船の上には役人の家の者らしき装いをした中年の婦人が居り、窓に伏して泣き叫んでいて、周囲には人垣ができている。


 王おばさんの乳母が裏門を開けて様子を伺いに出て行き、戻って来て話すことには、あの方は某知府の夫人で、船の中で昼寝をしていたところ、彼女の亡くなった娘が縄で縛られて肉を捌かれ、凄惨な悲鳴をあげているのを夢見た。


 恐れ慄き目覚めたが娘の悲鳴がまだ耳に残っている。どころか、まるで隣の船から聞こえてくるようだった。


 夫人が、召使いの女を隣の船へ様子を見に行かせると、船の上には今まさに殺されたばかりの豚が一頭いて、その血は器に向かって垂れ、まだ流れ切っていなかった。


 夫人は夢の中で、娘が脚を縄で縛られ、手を紅い帯で縛られているのを見た。さて、豚の前脚を縛っていたものは、果たして紅い帯であった。


 夫人はさらにも増して嘆き悲しみ、値段の倍以上の金を払ってその豚を買い取ると、土に埋めて葬った。



 その知府の家の召使いが後にこっそりと人に言った。


「あの娘は十六歳で死んだ。生前は極めてお淑やかで従順な人柄であったが、ただ、ひどく鶏を喰らうことを好んだ。毎食すべてにおいて鶏を喰う。鶏が無ければ箸を動かさなかった。だから毎年、しめて七百八十羽の鶏を殺したのだ。恐らくこれは、殺生ゆえの業であろうよ。」



紀昀(清)

『閲微草堂筆記』巻九「如是我聞三」より


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