第3話 方桂

 方桂は、ウルムチの、流人の子である。彼が言うには、かつて山中で放牧をしていたところ、一頭の馬が突如逃げ出した。


 彼がその馬を追って探し回っていると、峰々を隔てて凄まじい嘶きが聞こえてきた。声をたよりに奥深い山間の谷に辿り着くと、人のような獣のような、何かが見えた。


 それらは全身が粗い鱗で覆われており、疎らに色褪せ、まるで年を経た松のようだった。髪は茫々として、鳥の羽で飾った車蓋(古代の馬車の上に取り付けた日差し避け)のよう。飛び出した目玉は真っ白で、まるで卵が二つ嵌め込まれているようだった。

 

 それらは皆で馬を押さえつけ、生きたままその肉を喰らっていた。


 放牧をする者の大半は、護身用に銃を携えている。方桂はもとより荒い気性の持ち主であった。樹の上に登って銃を撃ち放つと、それらは皆ことごとく深い林の中に姿を消した。馬の体はすでに半分、喰われていた。


 その後、再びそれらを見ることはなかった。今になっても、あれが何かは分からない。



紀昀(清)

『閲微草堂筆記』巻二「灤陽消夏錄二」より

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