第2話
「ねえねえおかあさん、また何か食べてるね?」
こたつのなかから、子猫のななちゃんが出てきて言いました。
「九時を過ぎたらオヤツはだめだよ、って言ったの、お母さんなのに」
ななちゃんはじいっとおかあさんの顔を見つめました。おかあさんは、お菓子の残りを口に放り込むと、ゴミ箱にお菓子の袋を隠すように放り込みました。
「そろそろ、本気でオヤツをやめないといけないんだけどね」
おかあさんは、甘いものが大好きです。涼しくなって過ごしやすくなると、食べたくなるのは甘いもの。まるで遺伝子に書き込まれているみたいに、気温が下がってくるとチョコレートが食べたくなるのです。最近は生クリームを食べるためのデザートがスーパーに並んでいたりしますし、菓子パンのようにお腹にたまるものも体が要求します。いや、脳みそかな?とにかく必要以上にカロリーを摂取しています。それは自覚しています。
「でも、このふよんふよんはオヤツのおかげでできているんだよね?」
ななちゃんはふかふかのおかあさんのお腹に飛び乗りました。猫のおかあさんのあたたかい毛並みに勝るともおとらぬ、毛布越しのやわらかい人間のおかあさんのおなか。ななちゃんは乳離れして久しい今も、猫のおかあさんのおなかを思いだしながら、人間のおかあさんのおなかをついフミフミしてしまいます。
「そうなんだけどね。コレステロールがだからさ」
おかあさんは、三十代に入って、毎年健康診断の血液検査ではコレステロール値の異常が報告されるようになりました。検査結果を見るたびに、おかあさんは背筋を正すのですが、あっという間にぐわんぐわんと波打ってあっちに甘いもの、こっちに甘いもの誘惑に抗えません。
「おかあさんは病気なの?」
ななちゃんはフミフミしていた手を止めておかあさんを見上げました。
「今すぐどうにかなることはないけど、どうなるかわからないから、気をつけないとね」
おかあさんは時々、おとうさんとどっちが先に死ぬか、という小競り合いをします。最終的にはおとうさんは、おかあさんがしんだら一緒に死ぬ!というものですから、ハイハイ、わたしが長生きしますね、と言って話しはそこまで。そんなときななちゃんは、また同じ話をしている、と退屈そうに二人の顔を眺めています。
「ななちゃんも、おかあさんがいないといきていけない」
ななちゃんは顔をすりすりとおかあさんの顔にすり付けました。おかあさんは、はいはい、と嬉しそうにななちゃんを撫でました。というわけで、おかあさんはななちゃんのためにも、おとうさんのためにも、オヤツを少しずつへらしていかなくてはと決意を改めるのでした。
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