おかあさんとななちゃん

@nypanchi

第1話

「ねえおかあさん、おかあさんはどうして男装した女の子が出てくるお話ばかり読むの?」


 子猫のななちゃんが、スマホばかりみているおかあさんに尋ねました。スマホの画面とおかあさんの間に割り込んで、じいっとおかあさんの顔を見つめます。


「ええとね。だってね。かっこいい女の子に憧れがあるからなの」


 おかあさんは答えます。そしておかあさんはいろいろな考えを巡らせるのです。

 かっこいい女の子。見た目がかっこいいのもいいし、頭が良くて気がまわる子もいい。剣に強くてもいいし、志高くある子もいい。

 そうだな、きっとどれもおかあさんがなりたかった姿。そして、たいていおかあさんがすきなのは。


「そんな女の子が誰かに愛されるお話」


 どんな女の子でも、愛されてほしい。かつて女の子だったおかあさんは、愛されたいと思っているのです。大事にされたいと思っているのです。女でなかったとしても、愛されたいのです。人間として愛する人に愛されたいと思っているのです。


「ふうん、そうなんだ。ななちゃんはよくわからないけど」


 ななちゃんはまんまるのおめめでおかあさんを見つめながら首を傾げました。


「でもおかあさんは、ななちゃんのことだいすきだよね?」


 そう言われてしまっては、ななちゃんを放っておくわけにはいきません。おかあさんは、スマホを脇にどけて、手を広げました。ななちゃんはすかさずあいたお腹の上にとびのり、ごろごろと喉を鳴らします。おかあさんは、ななちゃんのくびをゴシゴシと強めに撫でながら思いました。おかあさんは、ちょっと愛というのはわからない、と。愛する、愛される、と言っておきながら、おかあさんのこどもたちにも愛しているよと言ったこともないし、ましてや人前で愛を誓い合ったはずのおとうさんにも愛しているという気持ちになったことはありません。想像するに愛する、とは大切に思う、全てを許すということかなあと思うのですが...。どちらかというとすき、というほうがシンプルでおかあさんには簡単に使えます。すきか嫌いかは、直感です。


「おかあさんはななちゃんがすき。だいすき」


「そうだよねぇ、知ってるよ」


 ななちゃんは目を閉じておかあさんのなでなでにうっとりとしながら答えました。おかあさんは、だいすきなななちゃんを撫でながら、早くお気に入りのお話の続きが更新されないかなぁなどと思うのでした。

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