EP31
筋肉質な肉体に、短髪で若々しく見えるが、髪が高齢特有の白銀で、顔も少しシワが入っている。無駄な明るさで、無理してる感が否めなくて痛い。
「ここはアイクが運営すると聞いていたが事実なようだ。なんてったって憎きあの時のエルフがいやがる」
クククと堪えるように笑う痛おじ。確か名前はリガロ・リッテだったか?
ラニアを睨みつけ、無駄にデカい声量で言う。だが気のせいか? 悪意や殺意を全く感じない。
「エルフ! 朕に深く詫びるなら我がリガロ軍の切込隊長として迎え入れてやろう!」
「目障りなので消えてください」
「フハハハ……そうか、目障りか……! いいだろう! アイクを差し出せば朕は大人しく消えようではないか!」
リガロは俺をお求めらしい。やだなぁ、知らないおっさんに渇望されるの。
「出さぬと言うのなら武力行使だ! エルフにやられたことを反省し、朕は部下を数百引き連れて来た! お前ら、瀕死にしてやれぇい! フハハハハハ!!」
「本当に目障りですね。サラさん、やれますか」
「問題ない」
ゾロゾロと店内へ侵入してくるリガロの部下の面々。どいつも知性を感じないバカ面引っ下げて器物を破損していきやがる。
「全員焦がす」
サラの容赦ない放火が、辺りをジワジワと加熱し、リガロの部下たちは一網打尽。これには痛おじも少し困惑して見せる。
「竜人……! あいつは本当に最強の種族すら仲間にしていたのか! 朕は少しやつを侮っていたようだ! フハハハハハ!」
「何がおかしいんだよ、壊したもん全部弁償してけよ?」
「ぬ!? 貴様がもしや朕の探し求めるアイク・ロードか!?」
ぬってなんだ、ぬって。今どきそんなリアクションするやつお前ぐらいだろ。
大人数ではなく単騎になったのを見計らい、俺は痛おじの前に推参する。冥土の土産だ、顔くらいは見せてやろう。
「アイク! お前はすごい! 斬新なことを平然とやってのけるその才能! 朕は貴様が欲しい! 朕はこの世界のトップになる男! その朕に必要なのは貴様のような異分子だ!」
「チンチンうるせぇなぁジジイ。この世界を統べるのは俺、それ以外は全員雑魚だ、散れ」
どうやらこの痛おじは俺をスカウトに来たらしい。だが、当然そんなスカウトに興味はない。なぜなら俺がトップになりたいからだ。
「そうか、朕の仲間にならぬのなら、貴様は敵だ! 脅威は全力で潰してくれるわ! フハハハハハ!!」
襲いくる肉壁のような初老。だがその初老は、俺のあまりもの圧に少し動きを止める――
「腕、竜化五割」
訳でない。俺の背後でストレスが限界値に達したサラのオーラに怖気付いていた。
「ドラゴンアーム! フルバースト!」
技名のようなものを叫ぶサラの手は、いつもの綺麗な手とは対照的に、ゴツゴツと鱗のような物で覆われた厳つい見た目をしていた。
そんな手で繰り出されるパンチは、轟音を奏でて勢いよく初老魔王を弾き飛ばす。
「ぐっ……なんて威力だ……ハハ……ハハハ……」
「すげぇ、あんな威力食らってまだ強がれんのか」
シンプルに感心してしまうレベルでこいつタフすぎないか?
「アイク・ロード! 朕は貴様に負けたと認めよう!」
「いや俺はなんもしてねぇだろ。お前やられたの一回目エルフで二回目竜人だからな? 記憶力大丈夫か?」
「部下の強さも上に立つものの実力だぞ若いの。朕は確かにこの目で見た、世界を統べる力を持つ若者を。だが朕はここで折れたりはしない! 必ずリベンジしよう!」
地面に平伏していたリガロは、ムクっと起き上がると、高笑いを交えて豪快に言い放った。
「ここは撤退する! また会おう若き魔王アイク・ロードよ! 朕は貴様を気に入った! 次会う時はライバルとしてだけではなく、友として語らおう! さらばだぁ!」
「あ、おい! まじ弁償してけよクソジジイ!」
化け物じみた脚力で、すでに瓦解した天井から飛び去っていくリガロは、俺のことを気に入ったなんて恐怖の一言を言い放ってみるみるうちに小さくなっていく。
「安心しろぉ! 金は後で部下に持って行かせるぅ! フハハハハハ!!」
随分と離れたところからでも、十分聞こえる声量。あいつ老けてるだけで実は十代とかか?
「嵐のようなやつだったな」
「アイク殿も大概でさぁ」
「魔王ってみんなああなんですかね」
流石の俺でもあんなに無茶はしない。一緒の括りにされるのは癪に触ることこの上ない。
「とりあえず城に帰るか」
「まだ売り上げ報告終わってませんよ」
「あ、そっか」
異物が乱入したことで今何をしてたか分からなくなったが、とりあえず俺は大人しく捺印する書類が完成するのを机に突っ伏して待っておく。
――どれくらい待った頃だろうか、俺とサラが部屋の隅で筋トレを始めだした時、ラニアの手から書類が渡される。
「よし、捺印完了」
ポンと、見たことを証明する印を押す。
たいして確認はしていないが、見たところで俺には分からないからこれで問題ない。そもそも形式上、団体事業はトップが最終確認するってのが商売の基本らしい。商売に関してはロピスがトップでいいと思うんだけどな。
「じゃあ帰りましょうか、私は帰りに業者さんに声をかけておきますね」
「ついて行くぞ、外暗くなって来てるし」
「大丈夫ですよ、私強いので」
「確かに、俺行っても意味ねぇか」
優しく笑うラニアは「そのお気持ちだけで十分嬉しいです」とさらに優しく微笑む。でも心配なんだよなぁ。
「ワタシが行く。あの魔王警戒してるんでしょ? いくら強くても大人数で来られたら不利。広範囲で火を吹けるワタシなら問題ない」
「さっすが分かってんなサラ。頼んだぞ」
「任せて」
俺の気持ちを汲み取ったサラは、ラニアとともに歩いて業者のもとへ行く。残された俺とロピスは城へと向かって、雑談しながら歩いて行く。
「アイク殿は優しすぎやすね。あの魔王、わざと逃しやしたでしょ?」
「んなことねぇよ、あいつを相手するにはあまりにも場所が狭すぎただけだ。建物が全壊しかねないしな」
「そう言うことにしておきやしょうか。アッシには、てっきり彼に悪意が感じられずに逃したのかと」
ロピスはたまに鋭いんだよな。確かにあいつに悪意も殺意も感じれなかった。その理由はきっと俺を本気で殺す気はなく、仲間に引き入れようとしてたからだろう。
「――お、帰ってきやがったか。なんだ、エルフと竜人はいないのか? フハハハハハ」
「ッ――!? なにしにきやがった? ジジイ」
噂をすればというやつだろうか。城門前にリガロが鎮座していた。
「そう構えるなよ、力みすぎは故障の原因だぞ若造。フハハハハ……グハッハ!」
「どうした、その傷」
気取って俺に忠告をするリガロこそ、今にも故障しそうな姿をしていた。頬は血が滲み、腕は湾曲している。
「いや聞いてくれよ。部下にアイクのところに金貨持って詫び入れてきてくれって頼んだら、自分のケツは自分で拭けってボコボコにされた。ひどくないか? 朕は魔王だぞ? 扱いが雑いだろ」
「まぁ、魔王ってそんなもんじゃねぇか?」
「どこかの魔王も雑な扱い受けてやすもんねぇ……」
ロピスがどこのどの魔王を指しているかはわからないが、魔王ってのは実際雑に扱われるものだ。威厳がないからなんだろうな。リガロや、ロピスが指す魔王は特に。
「というわけで店の弁償代だ。今度は正しい作法で客として行かせてもらおう! フハハハハ!」
「別に来なくてもいいぞ」
高笑いするたびに傷が疼くのか、数秒に一度痛そうなリアクションを取る。安静にしとけよジジイ。
「あ、そうだアイク。これからはきっといろんなやつが貴様目当てで押しかけてくるぞ。覚悟しておくことだな」
「は? なんでだよ」
「今までの伝統を覆す城に、魔界全体を巻き込む規模の商業施設。貴様は他の魔王にとってもう野放しにできるほど雑魚じゃないってことだ! 箔がついたな! フハハハハ!」
それ喜んでいいのか?
リガロは俺の話を聞く気はなく、一方的に言いたいことを言った挙句、怪我を気にすることなく帰っていった。
「……多すぎね」
立ち去ったリガロが城門に残したのは、大きな台車二台。そこにはパンパンに金貨が詰められていた。
「さすがは魔王といったところでさぁ」
「ありがたくいただくかぁ」
ご年配の方からの施しはきちんと受けるのが若輩者の礼儀というものだしな。それにあのタイプは絶対に返却を受け入れないな。
「あ、手紙が添えられてやすよ」
「部下の人からだなこれ」
手紙には、長文での謝罪が前置きとして書かれていて、本文も謝罪文だった。あんなトップを持って大変だな。
***
「アイクさん、今度はミントさん目当ての方です」
「またかクソめんどくせぇな。サラ」
「潰してくる」
リガロに忠告されてから一週間。
あいつの差金なのでは? と思うほどに頻繁に敵対魔王軍が乗り込んできている。
中には、ミントやミーサたちを伴侶にしたいと乗り込んでくるバカもいる。大体は俺かサラを戦力として勧誘しにくるやつがほとんどだけどな。
「何度も追い返してんのに被害は増えるばっかだぞ」
「アイク殿、人気者でさぁ」
「ロピスの商才目当てのやつも来てたぞ」
「アッシはもうアイク殿なしじゃ生きてけない体になったんで無理でございやすね」
なぜか含ませたような言い方をするロピス。
そんな中まだまだ敵は城に乗り込んでくる。
「こいつら一掃して飯にすんぞ」
「了解です」
「美味しいのを作ろうロピス」」
「合点でさぁ」
俺はいずれ世界を統べる。だからこの日々は、歴史への一ページとして大切に記憶に刻むとしよう。優秀な部下を持っても、それを超越するクセの強さで苦労は絶えないが、まぁ悪くない日々だな。
「聞け三下ども! 魔王軍ワールドピースがお前らに拭えない恐怖を与えてやるよ!」
魔王を目指す俺、竜人を部下にしたけど苦労してます 真白よぞら @siro44
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