EP27

 ***


   

「割と人きたからサラヘルプ入って。ロピス、食材どれくらいもつ?」

「分かった」

「パンはもう無くなりやした」


 翌日、俺たちは店舗内で奔走していた。

 サラとロピスは厨房で調理。俺とラニアは接客と配膳。なかなかに忙しい。


「私も厨房入りましょうか」

「「「待機」」」

「えぇ……」


 俺とサラとロピスの声がシンクロする。


「ラニア、昨日の事件でセンスの無さを自覚しろ。いいんだよ、料理できないやつは出来るやつに任せれば」

「私の料理そんなにひどかったですか!?」


 ラニアは俺と同じで、料理が出来ない。それが昨日露呈した。本人に自覚はない。タチが悪いことに、本人は自身の料理センスのなさに気付いていない。


「確かに少し個性的な料理を作ってしまったとは思いますけど、味はしっかりしてるんですよ?」

「あれを口に入れる勇気はねぇよ。死にたくねぇもん」

「流石にあれはワタシも怖い」

「あれを食べれるのは余程飢えた命知らずくらいのもんでさぁ……」


 ラニアが一人で作った料理は、黒くベチャッとした謎の物体。顔のようにプクッと膨れ上がる気泡、ケタケタと笑うように湯気で動き何故か声のようなものが聞こえていた。

 あれは食べ物ではなく、魔物的な何かだと思っている。


「分かりましたよ、大人しく待機しときますよ」


 少し不貞腐れたようにプリプリしてみせるラニアだが、列に並ぶお客さんに呼ばれれば飛びっきりの作り笑顔で対応してくれる。今日は労ってやろう。


「アイクさん、明日も営業するか尋ねられました」

「多分しない。人手とこの施設に店出してくれるやつ見つけねぇと」

「分かりました、営業日は不定期とお伝えしておきます」


 きっと質問者は、列の長さで買えないと察した人なんだろう。確認するのが一番手っ取り早くていい。

 効率的に欲しいものを入手しようとする心意気は好きだし、出来ることなら今すぐにでも提供してやりたい。


「アイク、おにぎり終わった」

「スープもあと十杯程度でさぁ」


 提供している料理はスープとおにぎりとパン。ここからは十食限定のスープ屋さんとして行動していく。


「今店内にいる人はいけるって感じか。列散らしてくる」

「言い方が不穏ですね」

「大丈夫だ、対策はしっかりした」


 店舗の外へ踏み出し、俺は先頭に並ぶ人にまず声をかける。


「本日はご来店ありがとうございます。大変申し訳ないのですが、食材の用意が尽きまして本日は提供できない状況となっております」


 そう言って手に持つ箱から一枚紙を取り出して渡す。


「こちら次回来店時にご使用していただけるサービス券となっております。またのご来店をお待ちしております」


 自分を取り繕うキラキラの笑顔で接客してまずは一人にお引き取りしていただいた。


「皆様にもご用意しておりますので、順にお配りさせていただきますので、そのまま列を離れずお待ちください」


 中には不満をこぼす者もいたが、比較的穏便にかつ早急に列を散らすことは出来た。だが、次の営業はいつかと尋ねられて、口から出まかせに一週間後と言ってしまい少し後悔している。


「――あと一週間で、あの量を捌ける体制を作る必要があるってことですね」

「食材に関してはアッシが用意できるとして、問題は人手でさぁ」


 サラッとカッコいいことを言うロピスは、髪を一つに結び広間で発注書を大量に書いていた。その姿は修羅の如くメラメラと燃え盛っている。


「まずは店舗を募集する。後々に競い合うライバルになるが、人手が集まるまでは客足を分散させれるいい道具になる」

「そう簡単に見つかるものじゃない」

「とりあえず市場行って、片っ端から声かける。それで無理ならもう頑張るしかねぇ」


 今日はそこそこの反響があった。だから耳が早い人間ならこのことは知ってるはずだ。まだ賭け要素は強めだが、乗るやつも出てくるだろう。


「人手は私が友人に頼んでみます。迷惑かけたくなくて違う場所に行ってましたが、人材派遣を行ってるので。背に腹はかえられません、とことん迷惑かけます」

「頼んだラニア。金は惜しまなくていい、成功すれば十分元は取れる」

「無理でも敵地から強奪すればいい」


 極論はそう。

 稼げなきゃ稼いでる魔王を倒せばいい、それが魔界でのやり方だ。まぁあまりにも暴力的すぎるけどな。


「私は早速明日行動しますね」

「ラニア殿、息抜きも兼ねてアッシと行動しやせんか? 昨日の権利を早速使わせていただきまさぁ」


 どうやらロピスはここで”勝者は敗者を一日自由に出来る権”を使用するらしい。少し肩に力が入りすぎてるようなラニアを心配してのことだろう。


「あら、そんなことでいいんですか? てっきりアイクさんをこき使うのが最善だと思ってました」

「アイク殿はなんやかんやでいつもこき使われてやすからねぇ……」


 どうやらロピスは俺の苦労を知るものらしい。一生離したくない優秀な仲間だ。

   

 二人仲良く予定を立てるのを一通り見守り、俺は厄災が降り注ぐ前に立ち去ろうと努力はしたのだが――


「アイク、私も使う。勝者は敗者を一日自由に出来る権」


 努力虚しく、何を頼まれるか分からない厄災が俺の身に降りかかった。


「……何をご所望で?」

「人間界で食べ歩き。人間はまだ嫌いだけど食べ物は好き」


 言うラニアは「アイクはたまに人間界行ってるみたいだし?」なんて付け足して、おすすめの店を何店舗か連れて行けとアピールされた。


「うまい店山ほどあるからな」

「楽しみにしてる」


 笑って言い残すサラは、あくびをしながらフラフラと自室に戻っていった。

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