EP21

 ***


   

 祝、魔王城リフォーム完了。


「いやぁここまでくるのに長かったな。かれこれ一年か」


 綺麗なザ・城な造りと、スタイリッシュなカラーリングが目を惹く、大きな俺の城。今まで過ごしてきたじいちゃんの城はもう跡形もなく世代交代の風が吹いていた。

 そんな風を、城が一望できる敷地内の一角で感じている。


「業者が見学来て翌日に見積出してもらってその翌日。そんなに長くない、というか短い」


 ……そう。実は見学から二日で終わってしまった。

 徐々に崩れゆくじいちゃんの城を見て、「これからは俺たちの時代だぞ」なんてカッコつけようと思っていたのに、お金払ったら瞬時にリフォームが完了した。


 なぜなら、魔法を使っての工事をお願いしていたからだ。人力では出来ない作業も可能になる。魔法ってすごいね。


「なんかさぁ、もっとドラマとかあっても不思議じゃないじゃん?」

「そう?」

「ドラマの過程で俺のカッコいいセリフで二人に慕われる。そんなシナリオだったのにどうしてこうなった!?」

「アイクカッコ悪い」


 慕われたい願望が露呈したら逆に軽蔑されるってのは大昔から定められたロジックなんだろうか。


「ロード様、外観の仕上がりどうでしょう?」

「非の打ち所がないっすね。部下一人は気に入り過ぎてもう篭ってますよ」


 リフォーム初日だからだと思うが、白の城壁は輝きを放つかの如くキラキラと輝いて見える。対して屋根の黒は何もかもを無にしてしまいそうなほど真っ黒だ。


「そう言っていただけるとうちの作業員も喜びます。ありがとうございます!」


 巨大な建物を瞬時にリフォームしたというのに、疲れを一切見せずにケータリングのグルメを堪能していた。

 建築数時間後に開催したこの打ち上げパーティー。

 それのメインを担うプレゼンツバイ店主のケータリングは、料理上手のサラも大満足するレベルのハイクオリティっぷり。商才のある店主はどうやら料理の才能もあるらしい。


「旦那、またすごいことしてやすねぇ」

「来てくれてありがとな、ダメ元で頼んでみて正解だったわ」

「旦那の頼みなら、アッシはとことんそれを叶えまさぁ」


 ありがたいことを言ってくれる店主は、作業員に料理を振る舞っていた。ついでに俺もおかわりした。


「店主、料理店開こう。ワタシは店主の料理が毎日食べたい」

「ありがたいことを言ってくれやすねぇ竜の方」


 サラはとても気に入っているようで、店主に料理店を開くようにせがんでいる。すでに自分の店もあるしもう一店舗を開くのは厳しいだろ。


「ですが竜の方、アッシはその頼みを実現するのは不可能でさぁ。なにぶん借りれる土地がないんでさぁ」

「土地があれば店開いてくれる?」

「土地があれば開きまさぁ」


 土地か。どうやら店主は土地さえあれば店を開く覚悟はあるらしい。今の店もやりつつ新しい店を持つなんて大変だろうに。

 ん? 待てよ? 土地……心当たりあるな。


「なぁサラ、店主。土地ならあるぜ」

「ほんと!?」

「本当ですかい旦那?」


 口いっぱいに料理を含むサラは、早く詳細を話せと言わんばかりに俺との距離を詰めてくる。店主も気になるのか、サラと同様距離を詰めてきて俺はジリジリと追い詰められる。


「ほら以前サラが家出した時に占拠した場所あるだろ。あの……なんだっけ、ルルなんとかの城」

「なにそれ」

「おいとぼけるな竜人、その顔は覚えてる顔だろ」


 完全にあの日の出来事を記憶から消したように振る舞うサラだが、ルルなんとかの名前は冗談抜きで忘れていると思う。


「旦那、竜の方。あの日倒したのは魔王ルルンバ・ルンバでさぁ」

「そうそれ、ルルンバ。あいつが持ってた土地は俺たちがテリトリーフラッグで占拠してたろ。あそこの土地やるよ店主」


 サラがルルンバ達を容赦なく葬った日、俺たちはテリトリーを拡大していた。店主におまけとしてもらったテリトリーフラッグでだ。

 だがそのテリトリーをどうすることもなく今まで暮らしてきた。ということはあってもなくても困らない土地ってことだ。


「そ、そんな! もらえないでさぁ! 魔王はテリトリーの大きさが重要なんでさぁ、気安く他人に渡しちゃいけやせんよ!」

「店主、いいと思う。あのテリトリーほぼ記憶から消えてたし、アイクもそうだと思う。それに、少なくとも店主はワタシ達の敵にはならないでしょ」

「で、ですが……」


 サラはどうやら俺の思考を把握しているらしい。言おうとしていた言葉を先に言われた。店主の説得はサラに任せて、俺はネクストステップを華麗に舞うとするか。


「ちょっと今いいですか?」

「はい勿論、どうしましたかロード様」

「新しい仕事お願いしたいんですけど、立て続けにお願いしてもいいですかね」


 サラが店主を説得して土地を受け取った次の段階。それは、荒地といっても過言ではない土地を商売が出来る場にすることだ。


「こちらとしても次の仕事をいただけるとありがたいです! 最近はもっぱらリフォームや建築の仕事が減ってて……」

「これからは多分増えますよ。俺たちが活躍していくんで」


 魔王同士の戦いは壮大。建物の破壊なんて当然だし、強奪したテリトリーは自分の好きなように建物を建てたりするのが一般的。だから今後俺たちワールドピースがこの業者だけを使えば万事解決なのだ。


「期待してますね、ロード様」

「任せてください」

「それで、次のお仕事はどんなご依頼でしょうか?」

「前に奪ったテリトリーで商売がしたいんだ」

「なるほど」


 業者のお姉さんは思考を一瞬で巡らせたのか、答えを導き出したことをアピールするように目を見開く。


「つまりそのテリトリーにお店として通用する綺麗な建物を造ればいいわけですね?」

「流石、話が早くて助かります。ただ、荒地なので専属契約してる処理業者に片付けてもらってからの依頼になるので、時間はかかると思います」


 今すぐにでも土地に店を建ててもらいたいが、処理業者に掃除してもらうワンクッションがあるので、即日でドン! は不可能な話だ。


「内容が決まり次第またご報告ください。楽しみにお待ちしておりますので」


 言って業者のお姉さんは、ケータリングに満足した作業員を引き連れて帰っていった。一通り見たリフォーム後の城だが、内装はじっくり見れていないため今から堪能するとしよう。


「サラ、店主は受け取ってくれるって言ってくれた?」

「待って、今言わす」

「待て待て待て、力技やめろ?」


 なにをするつもりか、パキパキと指を鳴らしてジワジワと近寄るサラに、店主はこの世の終わりのように悟った表情を浮かべている。諦めるな。


「とりあえず一旦城に入ろうぜ? 外で話してても仕方ないだろ」


 サラを制止し、残った料理を袋に詰めれるだけ詰めて俺は新生魔王城へと足を踏み入れる。以前とは対照的に明るい雰囲気のロビーは、外観のクールなモノトーンからは想像できないような高貴さを演出している。


「お言葉に甘えてお邪魔させてもらいやす」

「はーい、いらっしゃい」


 キョロキョロと辺りを見渡しながら店主を広間に案内するようにサラに伝え、俺はラニアが立て篭もる一室へと足を運ぶ。


「――っふぅ……!」


 ガシャン、ガシャンと気持ちのいいリズムで鉄が擦れあう音が響くここトレーニングルーム。そこには、自分を追い込むラニアの妖艶な息遣いが響いている。


「満足そうでよかった」

「アイクさん、すみませんパーティーに参加せずに篭ってしまって」

「別にいいって、やりたいことをすればいい」


 下半身を引き締めるようなセクシーなボトムスに、腕と腹が露出する大胆なトップスのラニアの鍛え上げられた肉体からは、努力量を可視化するかのごとく大量の湯気が発生している。


「引かないんですね、私の趣味を知っても」

「なんで? 引く要素あった?」

「え、だって……肉体派のエルフなんて一族の恥ですよ?」

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