EP20
***
《アイク視点》
業者のお姉さんによる見学が終わった。三十分ほどで、ペタペタと壁を触り尽くし、全てが分かったらしい。
「リフォームの詳細デザインですが、このようなデザインはいかがでしょうか」
そう言って渡された紙には、細やかに繊細なタッチで設計図が事細かに記載されている。これを見学しながら描いたっていうのか? なんて器用なんだろう。
器用なお姉さんによってデザインされた城の内装は、現在のジメジメ感とは全くの逆。明るい装いの、ハッピーな気分になれるような城を基調とするらしい。
城の壁も、雰囲気を出すために使われていたゴツゴツとした石などを使わず、丁寧に平にして、邪悪感を取り除くそうだ。
「外装もこの内装に合う感じですか?」
「はい。壁は白く、屋根は青の予定です。外装は今のままの方が良かったですか?」
「いや、そっちのがいいです。明るくて客人をもてなすにはちょうど良さそうです」
その他大勢の魔王城と全く異なる造りになるなら、振り切っていいですか? なんて吹っ切れ具合のお姉さんに全てを委ねる。デザイン案はどれもよく、俺の意見としては正直どれでもいい。最終的にはサラとラニアに任せるかあみだくじでいいと思っている。
「雑案程度に考えたものですけど、金色に輝かせるなんてのも明るいんじゃないですか?」
「目が疲れそうなんでパスで」
「ですよね。考えていて、自分でもありえないと思いました」
お茶目な発想もありつつ、最終的な案は二つまで絞り込んだ。
「丸っこいフォルムと、綺麗なザ・城みたいなフォルム。この二つかな」
外装に関しては、今の城とあまり変わらない城と言えばのような形。それも丸っこいドームのような城。カラーはどちらもカラフルな仕上がりで、魔界でも一際目立ちそうな見た目をしている。
「一度帰宅しますので、どの案でいくか決まりましたら、また足を運んでください。見積を作成いたしますので」
「了解です、ありがとうございました」
業者のお姉さんが魔法で姿を消した直後、サラが広間へとやってくる。
「あの人は?」
「今帰った。ちょうど良かったサラ、これどっちがいい?」
タイミングよく現れたサラは、どこか悲しげな目でトボトボと俺が座るソファーまで歩いてくる。
「おーい? 聞いてるかサラ」
「納得いかない」
「そうか、カラーリングか? それとも外装か?」
サラは納得がいっていないようだ。ジメジメ感がなくて明るさがアップしているから気にいると思ったんだけどな。
「違う。リフォームすること自体納得いかない」
「なんでだよ」
根本を否定された。まだサラは悲しげな目をしている。
「嫌じゃないの? おじいちゃんの城が跡形もなくなるんだよ」
「別に嫌じゃねぇよ」
あー、なるほどね。サラは罪悪感を感じてるのか。
恐らくサラは、自分が何気なく言った言葉を間に受けて俺が城のリフォームをすると思っているんだろう。
「ワタシ、咄嗟に言っちゃっただけで……」
「気にすんなって。別にこの城に未練があるわけじゃねぇし」
「でも、おじいちゃんは悲しくなる。自分が大切にしていた城が姿形を変えるのは」
「それも大丈夫。この城の形は確かに変わるかもしれないが、この城で過ごした思い出が変わるわけじゃない。それに時代に合わせて変わるのが建造物だしな」
サラはまだ考え込んでいるようなようすだが、少しはマシになった気がする。
「アイク、ワタシのためとかじゃないよね」
「自意識過剰か、嫌なことはしねぇよ俺は」
「ワタシのワガママでアイクを困らせたんじゃって思って……」
「サラのワガママは今に始まったことじゃねぇだろ。ワガママくらいが退屈しなくてちょうどいいから、これからもありのままでいてくれよ」
サラが気にしているサラ自身の性格。
ワガママなサラにはたまに困らされるが、サラがワガママを言わなくなったらもはや別人だと思うほどには、サラのワガママな部分も含めて愛おしい部下だと思っている。
「で、どっちがいいと思う?」
「アイクがそう言うならもう気にしない。にしても……これ本当に魔王軍の本拠地として使用するの? 派手じゃない?」
ワガママで、切り替えが早いのがサラの特徴と言える。
すっかりいつも通りのサラは俺の隣へ座り、リフォーム案二つに目を通している。どうやら二つとも魔王城としては派手だと感じたようだ。
「内装は割と普通だぞ」
「外見の話なんだけど」
言うサラは「形はこの、ザ・城ってやつがいい」と付け足す。
「ラニアの意見も聞こう。おーい、ラニアー!」
「はい、なんでしょう」
大きく響く呼び出しに応え、颯爽と参上するラニアに事情を明かしてまずは形で選ぶことにしてもらった。
「ザ・城の方ですね」
「満場一致でこっちに決定だな」
形は決まった。
「あとはカラーリングだけどどうする?」
「今の案はただ派手さを求めただけに思えるから好きじゃない」
「確かにサラさんの言う通り、このカラーリングに美的センスは感じませんね」
二人は納得がいっていないようだ。ぶっちゃけ俺はカラーリングなんてどうでもいい、目立ってたらそれでいいんじゃなかろうか。
「私が思うにですが、このなに一つ無駄のないフォルムの城には、白と黒。モノトーンでも十分に目を惹きつけれるのではないでしょうか」
「確かに。ラニア天才」
「じゃあそれで」
確かに、ここ魔界での城はどれも地味な紫を主体にして禍々しさを演出している。城の形は、先端を尖らせたり、無駄なパーツで飾ってみたり、ドクロを全体的にあしらってみたりと、
センスが壊滅的だ。じいちゃんのセンスも壊滅的だったんだろう、この城も無駄な装飾品がごちゃごちゃしている。
そんな中、スタイリッシュなモノトーンの城が現れれば、必然的に注目株になるだろうな。うちの部下天才。
「アイクさん適当すぎませんか!? 自分の城ですよ?」
「いいんだよ、二人の意見が俺の意見だ」
「考えるのが煩わしいだけですね?」
「そ、そんなことない」
なかなか鋭い。
サラとラニア二人の意見を傍聴する形で、リフォーム案の話し合いの時間は進み、外装のカラーリングはラニア発案のモノトーンで決定した。
「内装はシャンデリアなんかを使ってキラキラさせよう。舞踏会とか出来そうなやつ。この広間も優雅な感じにしよう」
内装を語るにおいて、この頻繁に使う広間の話題は外せない。
薄暗くクールな空間を演出するためにランタンの灯だけで照らされるこの空間で、俺は黒一色で統一された家具を見渡す。家具も買い直しだな
「そこまでするんですか? 一部くらいはそのまま残したらいいのでは?」
「分かってないなラニアは。やるなら徹底的にだ、中途半端が一番しらけるんだよ」
「そうだよラニア、やるなら精神まで追い詰める覚悟じゃないと」
「サラさんそれ意味合いアイクさんと一致してますか?」
ラニアを説得して、内装は”明るく優雅に”をモチーフに話し合うことに決定した。
「話長くなりそうだし軽くご飯作ってくる」と言って席をたったサラは、どこか嬉しそうに鼻歌を奏でる。
「良かった、サラさんが元気に戻って」
「ありがとうな、ラニア。サラと話してくれたんだろ?」
「雑談しただけですよ。それにしても、アイクさんの慕われっぷりには感動しますね」
「え、俺慕われてる? やったね」
子供を扱うように暖かい笑みを浮かべるラニアは、「その裏表のない自由奔放さが、慕われる秘訣なんですかね」なんて溢す。
「え、酔ってる? 褒めたって金貨しかでねぇぞ」
「対価が欲しくて褒めてるわけじゃありませんよ!? しまってください!」
酔っているとしか思えないほどストレートに褒めてくるラニアについ金貨袋の口が緩むが、金貨は受け取ってもらえず、寂しく袋の中に戻っていった。
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