EP19

 ***


   

《ラニア視点》

   

 サラさんがなにかを言いかけて言葉をそのまま飲み込んだ。アイクさんが去ったからでしょうか。その言葉はきっとサラさんの心からの想いなんでしょうね。


「サラさん、どこか浮かない顔ですね。力加減のことで何か問題が?」

「ううん……それは大丈夫。もう完全に習得した、フルパワーも出せるようになってる」


 さすが竜の血が流れる魔人、道さえ分かればゴールまでが早い。この習得の速さは憧れますね。

 でも、課題が解決したのにどうして浮かない顔をしているんでしょうか。


「……アイクはさ、おじいちゃんっ子なんだ。って前に言ってたんだ」

「そうなんですね?」


 敷地内に生える大木に勢いよくもたれかかるサラさんは、切なさを感じさせるような哀愁を漂わせている。


 それに、今までならあの勢いで触れたら確実に大破させていたであろう大木は、元気そうに堂々と生えている。疑っていたわけじゃありませんけど、本当に成功してたんですね。


「アイクはそんな大好きなおじいちゃんに城をもらって嬉しかったって言ってた。なのにどうして……」

「なるほど、サラさんは罪悪感を感じるんですね?」


 うぅ。と、体育座りした自分の膝に顔を埋めるサラさん。その姿は子供のようでとても愛らしく、思わず抱きしめたくなるほど庇護欲を掻き立てた。


「だって……とっさに口に出ただけなのに。大事な城を壊して別物にするようなこと、アイクは絶対辛い」


 アイクさんは、サラさんのそんな気持ちに気付いてると思うんですけどね。サラさんの目には我慢してリフォームにするように見えてるのでしょうか。


「ただの部下が自分のミス誤魔化すために口から出まかせ。ワガママ言って魔王を困らせた。部下失格だよワタシ」


 強気で大胆な性格な方だと思っていたのですが、どうも違うらしいです。とても考え込んでしまう繊細で可愛らしい女性。


 いけませんね、種族で勝手に思い込んでしまうのは。自分がされたくないことを無意識でサラさんにしてしまっていたようです。反省と償いを兼ねて、サラさんの悩みを解決するとしましょうか。


「サラさん、アイクさんはきっとなにも気にしていないですよ。それは私より長く一緒にいたサラさんが一番分かっているんじゃないですか?」

「それは……」

「どうしても罪悪感を感じてしまうなら、アイクさんに直接話をされてみては? 彼は他人を無碍にしない方でしょう?」


 私とアイクさんの関わりは浅い。だからあれこれと言えるわけじゃないですが、これだけは確信を持てる。アイクさんは決して仲間の意見を聞き流さない。抜けているところもあって、少しすけべだけど、人情に熱い人ってことだけは誰がなんと言おうが断言できます。


「それに、アイクさんは嫌だったらしっかり嫌っていえる人じゃないですか? サラさんが信じたアイクさんという魔王は偉大な方ですよ」


 アイクさんは、要注意人物にされていた私を恐れることなく接してくれた。サラさんだって私を対等に扱ってくれた。こんなにも親切でいい人たちの力になれる今がとても幸せ。だからこんなことでサラさんに悩んで欲しくない。


「ありがとうラニア、あとでアイクと話してみる」

「私はなにもしてませんよ、どうなるかはアイクさんとサラさん次第ですから」


 サラさんの表情からは、固い決意を感じられる。その場から立ち上がるサラさんは、深く息を吸い爽やかな笑顔を私にくれる。


「ラニアに話を聞いてもらったから行動できる、だからありがとうだよ」

「そうですか。では素直に受け取っておきましょう。サラさんが納得できる結末を迎えるといいですね」


 キラキラとした笑顔のサラさんは、気合を入れるように「うん」と頷いた。なんて愛らしい方なんでしょうか。

 この光景を糧に、私はサラさんやアイクさんと共にどんな道だろうと歩んでいける。そんな気がしてならなかった。

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