EP18
「制御は?」
「制御の段階にはもうしばらくかかります。あと七割力を解放してからなので」
「待って、全開放するつもりなのか? 力解放していつも通り生活させたらあいつのメンタル持たないだろ」
破壊に次ぐ破壊。最悪の場合この城が倒壊して俺かラニアが怪我する可能性だってある。そんなことになればあいつは自暴自棄なんてレベルじゃねぇくらいに病むぞ。
「竜人は、力を解放するごとに完璧な制御を覚えるそうです。それまではできないそうです。人間でもエルフでも、赤子は加減を知らないのと一緒ですね」
「これに書いてたのか?」
昨日渡した、エルフについてデマが書かれていた本だ。その一部のページに、竜人について書かれた項目。その下部に、ひっそりと竜人の力について記載されていた。
「サラさんが力を制御するヒントになるかと思って読み込んでいたら見つけたんです。なので極限まで解放できるように模索して早朝から実践してもらいました」
「効果はありそう?」
「通常時をノーマル、解放している状態がバースト、加減ができて非力な状態をカームと名称を付けるとすると、カームにはなれません。一切」
「そうか。まぁ急いでるわけじゃないし、いずれはコントロールできるようになるだろ」
破壊する日常をノーマルと括るのはどうかと思うが、サラの現状を細分化してラニアが把握してくれてるみたいだし問題なさそうだ。
「サラのことは任せた。物壊すの悩んでるみたいだからなんとかしてやって、俺には反抗するけどラニアには素直になれるみたいだから」
「あら、私にはアイクさんの前でも素直に見えますよ」
ラニアはそう言うが、実際はきっと違う。
「だといいんだけどな。俺はリフォーム作業に取り掛かるわ、午前中は惰眠を貪っていたから午後は頑張らねぇと」
「業者を頼らないのには何か理由があるんですか? 圧倒的に作業効率悪いですよね」
ラニアはどうやら失念しているようだ。自分が関わった契約の内容を忘れるなんて、ラニアもまだまだだな。
「契約しただろ? 処理業者と。他の業者は使っちゃダメだって。だから使いたくても使えねぇんだよ」
「……? 契約を交わしたのは、処理してくれる業者の指定だけで、他の作業を請け負ってくれる業者を利用しても問題ありませんよ?」
「え? まじ?」
自分の机に入れている契約書に改めて目を通してみる。堅苦しい文章がツラツラと並べられていて頭が痛くなるが、どうやらラニアが正しい。
「まさかご自身が持ってきた契約を忘れてたなんて言わないですよね? そんなゆるゆるな考えだといつか損しますよ?」
「……すみません、以後気をつけます……」
大人しく業者を呼ぶことにした俺は、ラニアを連れて業者に依頼しにいくことにした。サラは集中しているみたいだからそのまま集中してもらうことにした。
***
「アイクさん、コスパで言うと一店舗目が理想です。二店舗目は小さな魔王軍だからといって舐められていますね、価格が作業に釣り合ってません」
「ははーん? なるほどね?」
「理解してませんね」
魔界のリフォーム業者を二つ訪ねた。
一つは真っ当な価格帯で、いいリフォームをしてくれそうな雰囲気を感じた。二つ目に行ったところは、一つ目のところの五倍ほどの価格を提示された。
「もう一個目でよくない?」
「価格はいいんですけど、信頼性がどうにも……どこか粗末な作業をされそうでした」
「拠点がボロボロだったな。リフォームすればいいのに」
一つ目のところの建物はサラが撫でるだけで全壊しそうなほど酷かった。ラニアはそこを気にしているのだろう。
リフォームする業者の本拠地がボロボロなんて、いい笑い物だろ。
「近くにもう一軒リフォームしてくれる業者があるみたいなので、そこに行ってみましょう」
「もうラニアに任せて帰っていい?」
「いいわけないでしょ」
半ば強引に連行されて俺は、小綺麗な建物へと足を踏み入れた。
「ようこそ、本日はどういったご用件で?」
「城を明るくハッピーな感じにして欲しいです」
「……えっと、一応聞きますけど魔王城ですよね?」
「もちろん、ここ魔界ですしね」
困惑しながらもザッとリフォームの参考例を四通りほど提示してくれるお姉さん。ラニアと似たような雰囲気の業者の受付のお姉さんは、具体例を俺に聞いてくる。
「ここは譲れない、と言ったポイントはありますか?」
「外装よりは内装メインで、照明とかで城全体が明るく見えるような造りがいい」
「なるほど。うちはいくつかの城のリフォームを担当させていただいたことがあるんですけど、どこも薄暗く不気味な印象を与えるデザインでしたが、今回は真逆という認識で大丈夫ですか?」
魔王城のセオリーを超越するぞ? 本当にいいのか? と言わんばかりの圧を感じながらも俺はどうどうと追加の要望を言う。
「あと壁とか天井の材質を竜人の力に耐えれるほどの強度にして欲しいです」
「竜人の方がいらっしゃるんですか?」
「いますよ、力加減できないのが」
「となると、相当の強度が必要ですね。魔法を使ってのリフォームも視野に入れた方がいいですね。少し根は張りますが」
強度の高い素材は存在しないのか、お姉さんは魔法で補強することを提案してきた。値段はどれくらいかかってもいい。満足のいく作業をしてくれるなら。
「金額は気にしなくて大丈夫です。な、ラニア」
「そうですね。ですが、作業を請け負っていただく前提で一度見積をいただけますか?」
「はい、承知いたしました。では一度お城の方を見学させていただきたいのですが、ご都合の良い日はありますか?」
「いつでも大丈夫ですよ」
お姉さんは空きの日付を机に置かれたカレンダーで確認して、「うちは最短で今から大丈夫です」と、業者の予定を教えてくれる。
「今からでお願いします。早いほうがいいので」
「承知しました。では今から転移魔法を使用しますのでこちらへ。あと、城の所在地をお教えください」
どうやらこのお姉さんが転移魔法を駆使して城へ移動してくれるらしい。そのまま、今の城がどのような状態かを確認するらしい。
「――ここであってますか?」
「あってますよ」
城についたものの、このお姉さんは何度も確認してくる。
「なにかおかしな点でもありましたか?」
「その……失礼ですが、ルーキーだと思っていたのでお城の規模に驚いて」
「分かりますよその気持ち。私も驚きましたから」
俺は若く見られていたと喜ぶべきか、それとも頼り甲斐も甲斐性もないやつだと思われて落ち込むべきなのか。
「祖父から受け継いだ城なので驚くのも無理はないですね」
城門から少し離れたところに転移したため、少し歩いて中へといく。
「城門、というか城の敷地内を敵に突破されないようなリフォームって出来ますか?」
「可能ですよ。堅牢な結界を張って門だけ入り口式の魔法陣を展開するか、登録した人以外が敷地に入った瞬間に爆発する魔法陣を展開するかですね」
二つ出された案の後者は物騒だから、消去法で前者だな。これで出入り口を門一つに絞って、警戒しやすくする寸法なんだろうな。城壁からの侵入を考えなくていいのは楽でいい。
「とにかくまぁ中の方を優先で。外に関しては後々考えます」
「承知しました。では早速内装を確認させていただきますね」
業者の人は自分なりに要点を効率よく見たいだろうから、「好きに見て回ってください」って言ったら、「まずは壁から見ます」と言ってペタペタと触りながら進んでいる。
「アイクさん、爆発する魔法陣ってワクワクしません?」
「しません、物騒」
物騒すぎて除外した案をウキウキとまるで子供のように弾むような声で言うラニア。そんなラニアと俺に、城の外でシャドーボクシングしていたラニアが気付いた。
「アイク、あの人なに?」
「リフォームしてくれる業者。サラの言う通り、ジメジメしてんなと思ってな」
「え、リフォーム本気でするの?」
汗だくのサラは動揺を隠せず、俺に詰め寄ってくる。なぜそんなに動揺することがあるんだ。
「要望があったらあの人に言えばしてくれるぞ。いい城にしようぜ、ラニアもな」
「承知しました、ありがとうございますアイクさん」
「待ってよアイク……」
なにかを言おうか言葉を選ぶように俯くサラだが、俺は業者のお姉さんに呼ばれてしまう。サラには、「また後で話聞くわ、力の制御頑張れよ」とだけ言い、サラのことはラニアに任せてお姉さんのもとへ小走りで向かった。
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