EP17

 まずは知識。そして行動。それが自分でリフォームするコツだろう。

 俺はまず書庫に行くことにした、祖父の趣味がさまざまな文書を集めること。だから城には膨大な量の本がある。だがどれも読んだことはないと言っていた、祖父はバカだった。


「理解できないのに集めてたもんなぁ」


 壁一面に広がる本棚に、大小さまざまの背表紙がずらりと並べられ、中央に数個配置されたテーブルにも何冊も積まれている。

 見ればどれも新品のように綺麗な状態を保っていた。


 この中にならリフォームに活かせる知識が書かれた本があるだろう。


「これと、これ。それとこれも」


 タイトルがそれっぽいやつを数冊手に取る。

 外観の勉強、種族ごとの建物の特徴。などいろいろな資料。


「お、これって」


 最初に読んだ資料にはジメジメと薄暗い、この城を彷彿とさせるような雰囲気の洞窟の絵を見つけた。

 その洞窟には、そこを居住区として過ごしていた竜人の姿も描かれている。


「誤魔化すために言ったんだろうけど、ジメジメしたこの城が嫌いってのは事実なんだろうな。幼い頃に無くなったって言ってたし、なにか過去にあったんだろうか」


 この資料で全てが……というわけではないが、ある程度のことは理解した気がする。故意にではないにしろ、破壊するのは過去を思い出すからなのかな。


「エルフの里にもついて資料があるのか。え、まじで!? エルフって女性しかいねぇの? それに、里では衣類を纏わないだと!?」


 これは真偽を確かめる必要がありそうだ。俺はこの本を分かりやすいところに避難させ、別の本へ手をかける。


「……ふむ、さっぱり分からん」


 種族の集落などの雰囲気は理解できて、今後どうリフォームするかのイメージは固まったものの、リフォームの仕方がさっぱり分からん。工具やら魔法やらを駆使してリフォームするようだが、基本はプロにしてもらうのが無難らしい。


 契約さえなければ業者を呼んでパパッと済むんだけどな……。

 うちは一つの業者と専属契約を結んだ。だからリフォームの業者を呼べない。処理業者でリフォームを行なってくれればいいのに。


「言ってもやっちまったもんはしゃあねぇもんなぁ……」


   

  ***


   


 数時間書庫にこもったのち、広間に戻ると服がはだけたほぼ半裸に近いサラが視界に飛び込んだ。


「痴女じゃん」

「……が、ちが……が……」

「違う、違う違う。と言ってます」


 力尽きるようにソファーに体を沈めるサラは、声が出しづらいのか、ガラガラながらにも痴女疑惑を否定していた。


「何があったんだ?」

「ひたすら魔界を走り込みました」

「一緒に?」

「もちろん」


 にしては一切疲労感を見せないラニアは、サラの汗をタオルで優しく拭う。


「もうむり、あづい……」

「火吹けるんだから物理的に放熱したら?」

「それだ」


 体に停滞する熱が苦しいのか、駄々をこねるように唸っている。


「それだ、じゃないです。アイクさんも変な提案しないでください。危険です」

「でも暑いし」

「無理はダメだぞ、苦しいなら発散しないと。ラニアも無理しなくていいぞ、裸族が屋内で暮らすのは窮屈だろ」

「なんの話をしてるんですか?」


 ラニアは俺がなにを言っているか本当に理解出来ないのだろう、誤魔化している様子はなく、ガチで困惑している。


「え、エルフって裸族じゃねぇの?」

「どこ情報ですかそれ……」


 バカな上司の戯言に呆れを隠しきれていないラニアは、俺がエルフは裸族だと知ったソースを求めてきた。


「じいちゃんが集めてた古い本」

「少し見せてもらえますか?」


 例のページをペラペラと開いてそのままラニアに渡す。数秒目を通すと、ラニアの眉間にキュッとシワがよるのを視認できた。


「エルフの里に女しかいないというのは事実です。が、裸族なんてのは嘘です」

「えぇ……ぬか喜ばされた」


 美人が全裸で生活する素敵な集落だと想像していたのに、少し損した気分になる。でも男がいないのにどうやって子孫繁栄してきたんだ?


「オスなしでどうやって子孫を繁栄させてきたんだ? エルフって」

「私たちエルフは、魔力の化身のようなものです。里に濃い魔力が集った時、新たな生命が誕生します。その生命を里のみんなで育てていく。それがエルフです」


 言うとラニアは、「エルフの里での服装をお見せします。少々お待ちください」と言って自室へと着替えに行った。


「全裸に近い服に一票」

「そんなのアイクの前で着ないでしょ、ワタシは分厚い着ぐるみみたいなのに一票」

「当たったら外れた方に飯奢りな」

「ごち」


 勝ちを確信したのかサラは、なにを食べようかなんて考えている。


「お待たせしました、これが正しいエルフの文化ですよ」


 現れたラニアは、半透明で、真っ白な肌が透けるワンピースを身に纏っている。秘部は隠れているものの、すけべ感は全裸よりあると思う。


「これ俺の勝ちだろ」

「負けを認めるしかなさそう」

「なんの話をしてるんですか?」


 すけべな文化を象徴するかのようにスケスケワンピースでソファーに座って妖艶に足を組む。胸がない分太ももが大変魅力的に見える。


「いやぁラニアは痴女だなぁって」

「エルフは痴女の集団?」

「ひどい言いようですね」


 むすっと不貞腐れるラニアは「崇高なエルフの文化は少し早すぎたんでしょうか」なんて言っている。そんなアダルティな文化ついていけない。目の保養にはなるけどな。


「サラ明日店主の店横の麺屋な」

「あそこ美味しいもんね。たくさん食べたらいい」


 賭けで勝ち得たタダ飯の権利を早速明日に使用することにして、俺は一日使いすぎた頭脳を休めることにした。


「おやすみ。ラニア薄着は目にいいから止めないけど、風邪に気をつけなよ」

「エルフの衣装は特別仕様ですよ。ちゃんと温度調整魔法が付与されています」

「なにそれ着たい。暑いからかして」

「ちょっと、早まらないでください。まだアイクさんがいますよ!」


 温度調節ができると聞いて、排熱できていないサラはとても興味を持ったらしい。俺がいるにも関わらず、ほぼ裸の仲間を上司の前で脱がそうと襲いかかっていた。

 もうなにも言うまい。ラニアに温かい視線を送ってから、俺は自室のベッドで睡眠を貪った。


「――起きてくださいアイクさん」


 俺の部屋に朝日が漏れ込んでいる。黒のカーテンから差し込む光陽は、寝起きの目には酷くスパルタな眩しさを放っている。


 そして目の前には、すけべ服を着た美人なエルフがいた。ここは天国か?


「えっちなお姉さんエルフが目の前に見える。胸ねぇけどエッチだ――ぐほぉ!?」


 ヘビー級の衝撃が俺の腹部を苦しめる。天国から地獄、まさにこのことだ。なにが気に障ったのか、俺の近くで笑顔をピキらせるエルフのお姉さん。


「あ、ラニアか。おはよう」

「……何事もなかったかのようにしれっと起きれるの凄すぎますね、ある意味。というかもうお昼過ぎです」

「えっちな服装で起こされただけだろ、別にすごいことなんかねぇよ」


 どうやら俺は起こしに来たラニアに貧乳という事実を突きつけ、怒られたらしい。いいパンチだ。


「で、何かあったか? 俺の部屋に来るの珍しくね?」

「あ、忘れるところでした」


 まだ起き上がれない俺が沈むベッドのフチに腰掛けるラニアは、プニプニと俺の頬を引っ張っている。まだ眠気が取れず抵抗する気力が湧かない。


「サラさんがすごいんですよ! 奇跡と言っても過言ではないです」

「へー、力の制御可能になったの?」


 自分のことのように誇らしげに言うラニアは、サラの進歩を語る。ラニアが言うには、すごく躍進的な成長を見せたらしい。


「今まで以上の破壊力を発揮しました。ここからでも見えますよ」


 言われるがままにベッドから起き上がり、ふらつく足取りで部屋の窓側まで行くと、光を妨げるカーテンをバサっと解放する。


 いつも少し離れた位置に見える不気味な山。紫に色付く葉っぱが人を誘うかのように存在感を主張するその山は、俺の部屋からよく見える。朝日が昇る瞬間は実に綺麗に感じる。

 のだが。


「見慣れた光景が失われたんだけど? 世紀末か?」


 日常が失われる速度がまさに世紀末。この魔界でいよいよ戦争でも勃発したって言うのか?


「サラさんが自身の力を三割解放した結果です。流れる竜の血を活性化させて本来の龍人のスペックに近付く境地です」


 俺は考えた。あの破壊神が本来の竜人じゃなかったってのか? どんな驚きスペック隠し持ってたんだよ。

 てか待てよ? サラがやってたのって、力の制御であって、解放して山を壊すことじゃなかったはずだ。なのになぜこうなった?

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