EP13
冷静に。子供の遊びに付き合っていた大人のような風格で、そう言った。そして軽くサラを投げ飛ばすと、懐からどす黒く赤い血の結晶のような宝石を取り出してサラに見せつけるように差し出した。
「サラ……?」
立ち上がり反撃しようとしてたサラだが、宝石を見た瞬間にピタリと動きが止まる。なんだあの石。
「サラ・ドラゴ。お前は一生利用される運命なんだ。どうせこの男もお前を利用しているだけだ。だから自分の価値を認めて大人しく僕に従え」
微動だにしないサラに植え付けるように言葉を発する勇者。決して勇者とは思えないような言動、こいつもう勇者を名乗るのやめろよ。
「うぅ……頭が……」
「サラ、しっかりしろ。大丈夫か」
「無駄だよ。この石は竜人のトラウマを増幅させて動きを止める希少ない石なんだ。神は人間の味方らしい、最強の竜人に対抗できるアイテムを用意してくれるんだから」
完璧な作戦と言わんばかりに、「この状態で心を折って廃人にする。肉壁に感情なんていらないからね」なんてほざきやがる。
「お前、魔王城に来てまさかサラの対策しかしてないなんて言わないだろうな」
「もちろんしてないよ、僕は強いからね。道具を肉壁しか用意できない無能なんんて眼中に――なぁ!?」
「眼中にねぇなら今すぐ入れろ、そしてその体に刻め。アイク・ロードの名前をな」
油断し切って俺を見ずに話すから、隙だらけで余裕で顔にキツイの一発ぶち込めた。
「今回は前みたいに見逃さないよ?」
「部下に手を出されて黙ってらんねぇだろうよ」
本気の三割程度。それくらいで十分だろうか、このクズを蹂躙するのは。
息を吸って、自身の肉体に空気を循環させる。イラつく脳をクールダウンさせて、冷静な判断でこのクズ勇者の動きを予測する。
右足で踏み込んで突っ込んできて、今は左足が前に出ている状況。右手に握られた剣は、刃が下に向いた状態で振り上げられている。
体は左半身が少し後ろに下がっていて、おそらくやや左斜めに斬撃を下すのだろう。だったら俺はクズ勇者の右手側にかわせばいい。
「読めてんだよ雑魚が」
「っ!」
斬撃を振り下ろした反動ですぐに反応できない勇者に、躊躇なく蹴りをお見舞いする。さすがにサラのような威力はないものの、体幹を少し乱す程度の威力はある。
「サラ、まだ動けねぇか? このままじゃ俺が仕留めちまうぞ」
「……」
なにをそんなに囚われているのか。まぁきっと勇者パーティーに裏切られたトラウマになんだろうけどな。そんなに辛かったのか? こんなクズから離れられてラッキーだろ。
「無駄だ! もうその肉壁の心は粉々に砕けている!」
「黙ってろカス」
サラに語りかける俺を妨害するかの如く声を荒げる勇者は、自慢のお顔をぐちゃぐちゃにしながら俺に斬り掛かる。
取り乱しているからか、さっきより動きが単調で隙が山ほどある。
だからその隙だらけの脇腹に、玉座を組み立てるために床に置いていたドライバーを突き刺す。防御力の高そうな鎧でも、側面は案外作りが甘い。
「がぁぁぁぁぁ! き、貴様……勇者であるこの僕に! よくも!」
「正気か? 敵地に乗り込んだくせに甘えたこと言ってんじゃねぇよ」
勇者のくせにふざけたことをほざくこいつは脇腹を抑えてうずくまっている。今のうちにサラをトラウマから引き摺り出すとするか。
「おいサラ! 戻ってこい、お前の因縁だろ! 俺が仕留めたらお前一生囚われたままだぞ、それ以上辛いことがあるか!?」
「アイク……」
「そうだ、目を覚ませ。お前はあんなカスに利用されて心が折れるようなヤワなやつじゃねぇだろうが」
あの石のせいか? サラがまだ正気を取り戻さない。神経に魔術かなにかが作用していると考えるのが妥当だろう。
「もう少し素性は隠しときたかったんだけどな……」
こうなれば仕方ないか。
魔力の器、そんなイメージが俺の体内にある。そんな器に俺は鍵を掛けている。この、人間離れした膨大な魔力を包み隠すために。
「サラ、俺の目を見ろ!」
サラの目が、俺の目をしっかりと捉える。
こっからは精神論だ。
***
《サラ視点》
「仮にも魔王の拠点に乗り込んでくるなんていい度胸。それに竜人のワタシに一人で勝てると思った?」
ワタシを利用したクズが、今のワタシの居場所に乗り込んで来た。
いつかは復讐すると誓った相手が、自らやって来た。ワタシはただ殴る、今までの恨みを全てぶつけるように。
「もう気は済んだかな? 僕は顔も売りなんだ、これ以上は遠慮してもらうよ」
冷静に。勇者はワタシの拳を軽く受け止めて嘲笑するように言葉を放つ。そのままワタシを投げ飛ばして、懐からどす黒く赤い血の結晶のような宝石を取り出して見せつけるように差し出す。
「サラ……?」
立ち上がり反撃しようとしても、宝石を見た瞬間にピタリと動きが止まる。なにあの石、ワタシをキツく締め付けるような威圧感を宿している。
「サラ・ドラゴ。お前は一生利用される運命なんだ。どうせこの男もお前を利用しているだけだ。だから自分の価値を認めて大人しく僕に従え」
ワタシの心を砕くように、トラウマを掘り返す勇者の言葉に苛立ちを感じても、ワタシの体は動く気配がない、それどころか、心がもう折れそうでつらい。
「うぅ……頭が……」
「サラ、しっかりしろ。大丈夫か」
ワタシのところに駆けつけて声をかけてくれるアイクに応えたくても、言葉を発することも億劫で辛く感じてしまう。
「無駄だよ。この石は竜人のトラウマを増幅させて動きを止める希少ない石なんだ。神は人間の味方らしい、最強の竜人に対抗できるアイテムを用意してくれるんだから」
呆然と立ち尽くすことしかできないワタシを見ながら、「この状態で心を折って廃人にする。肉壁に感情なんていらないからね」なんて息巻く勇者。
「お前、魔王城に来てまさかサラの対策しかしてないなんて言わないだろうな」
「もちろんしてないよ、僕は強いからね。道具を肉壁しか用意できない無能なんんて眼中に――なぁ!?」
「眼中にねぇなら今すぐ入れろ、そしてその体に刻め。アイク・ロードの名前をな」
油断し切っていて隙だらけの勇者は、アイクに重い一撃を自慢げに誇張する顔にくらった。
「今回は前みたいに見逃さないよ?」
「部下に手を出されて黙ってらんねぇだろうよ」
見たこともないほどに真剣な眼差しのアイクの表情には、メラメラと怒りを感じる。
アイクは目を瞑りながら息を吸って、怒りが込み上げる脳をクールダウンさせて、冷静な判断でクズ勇者の動きを予測している。
クズ勇者は右足で踏み込んで突っ込んできて、今は左足が前に出ている状況。右手に握られた剣は、刃が下に向いた状態で振り上げられている。
体は左半身が少し後ろに下がっていて、おそらくやや左斜めに斬撃を下すつもりだと思う。あいつはよく似た動きで立ち回っていた。
単調な動きだからアイクは、クズ勇者の右手側にかわせばカウンターを狙える。
「読めてんだよ雑魚が」
「っ!」
斬撃を振り下ろした反動ですぐに反応できない勇者に、アイクは躊躇なく蹴りを繰り出す。パワーがなく、肉弾戦に向いていない魔王だと思っていたけど、仮にも勇者に選ばれた人間の体幹を少し乱す程度の威力はあるみたい。人間にしては鋭い動きをしている。
「サラ、まだ動けねぇか? このままじゃ俺が仕留めちまうぞ」
「……」
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