EP12

「どういうつもりでうちの近辺に城建てた?」

「た、助けて……」


 じわじわと涙を溜める貧弱そうな魔人は、サラに胸ぐらを掴まれて完全に萎縮している。あぁ可哀想に……。


「質問にすら答えれない低脳に用はない、次」

「ひ、ひぇえ!」


 胸ぐらを掴んでいた魔人を地面に叩きつける気を失わせるサラは、次の標的に移る。そして同じようにそいつにも同様の行為と質問を行う。なんて野蛮なんだろう。


「まぁまぁサラ、全員の意識飛ばすつもりか? 肝心のこと聞きだしてからにしようぜ」


 地面に叩きつける勢いのサラを制止して、俺は半泣きの魔人に優しく声をかける。


「おい、挑発するように城立てた張本人どこ? 魔王出せよ、下っ端じゃ話にならねぇ」

「あ、あの方ですぅ……! お許しください!」


 優しく接することで俺の無害さが伝わったのか、魔人は親切に魔王が誰かを教えてくれる。そんな魔人が指差すのは、先ほどサラに気絶させられた魔人だった。


 下っ端かと思っていたが違うらしい。俺は気を失う魔王へ近付く。


「もう二度と挑発すんなよな」


 背後にバキッという人の骨が折れる音を聞きながら、俺は買いだめしていたテリトリーフラッグで場所の所有者を塗り替える。少しだけ俺の城の敷地が広くなった。家庭菜園を始めるのにちょうどいい大きさだ。


「サラ、後で業者入れてこのゴミの掃除と家庭菜園の準備進めてくれ」

「どうして家庭菜園? まぁいいや、分かった」


 魔界には、競合の魔王軍を潰した時や、なにかをやらかした時に後処理をしてくれる業者が存在する。


 以前潰した魔王のテリトリーはまだそのままにしているが、今回は城から近いし家庭菜園もやりたいしでその業者を呼ぶことにした。少し値は張るらしいが、些細な問題だ。


「後ついでにご飯作って」

「ご飯先でもいい?」


 小腹が空いたのはサラも同じらしい。

 敵対魔王が逃げ出さないように強固に拘束して、俺たちは軽食を食べに自身の城へ戻った。


   

 ***


   

 軽食を食べ、サラが業者に清掃を依頼しに行った。

 拘束してる連中も業者が片付けてくれるから、俺はそのまま放置することにしている。にしても今俺は暇だ。


「店主と雑談でもしにいくか」


 そう決めた俺の行動は早い。直ちに城を出て、数分歩いてもう店主のいる店の前にやって来ていた。

 ……のだが、店が開いていない。


「旦那、すいやせん。今日はどこも閉店でさぁ、午前は開店できてたんですがねぇ」


 店の前で挙動不審に辺りを見渡す俺の気配を感じたのか、閉じられたシャッターを少しだけ上げて俺に店主が声をかけてくれる。


「定休日か、邪魔して悪かった」

「いやいや旦那、違いやすよ。勇者が目撃されたんでさぁ」


 焦りの表情を見せる店主は、危険だから中に隠れろと提案してくれるが、俺は少し不安になる。勇者ってあれだよな? サラを道具扱いする鎧イケメン。


 まさかもうサラの居場所を突き止めたってのか?


「店主、勇者ってのは一人だった?」

「ええ、アッシは一人だったと聞いてやす」


 自身で目撃した訳ではないから断言は出来ないと続ける店主は、不安そうな顔をしている。


「目的は分かりやせんが、何かを探すように歩いていたらしいでさぁ。目撃者は一度勇者に殺されかけてやす、怯えてしばらく外に出れやせん。早く去るのを望むばかりでさぁ」

「任せとけ、俺が――いやちげぇな。サラがなんとかすっから」


 勇者の目的はサラ・ドラゴ。一人で来ているなら、派手に暴れて被害を出す可能性は極めて低いだろう。いくら勇者といえど魔人に囲まれて袋叩きにされればひとたまりもないだろうからな。


「旦那……正気ですかい?」

「うちの部下は借りがあるんだ。それを返すだけだ」


 それだけを伝えて、俺は店を後にする。

 急いで戻りたい。大丈夫だとは思うが万が一サラがピンチの時に微力ながら手助けしたい。


「――サラ!」


 息を切らし、城のドアを蹴破る勢いで帰還する。広い視野を確保するためにバッと顔を動かしたからか、焦点が定まらない。


「アイク……? なにかあった? 部屋にいないと思ったら外に出てたんだ」

「……サラ! よかったよかった!」

「ちょ、急になにほんと」


 困惑する様子を浮かべるサラに躊躇抱きつく俺に、よほど困惑したんだろう。サラは俺を優しく包み込んでゆっくり頭を撫でる。


「来てねぇか? 勇者」

「来てないけど?」


 深呼吸して落ち着いた俺は、何事もなかったようにソファーでコーヒーを嗜み冷静を装う。隣でまだ状況を理解できていないサラもコーヒーを飲んで頭をリセットしようとしている。


「実はな、勇者が一人で魔界にやってきてるらしい」

「そう、乗り込んで主悪を断とうって提案した時は断ったくせに。わざわざ一人で来るんだ」


 人のためじゃなく、自分のためにしか動けない勇者に怒りを覚えたのか、眉間にすごく深く皺が寄り、口からメラメラと火の粉が揺らいでいる。


「潰してくる」

「待て待て、どうせそのうちやって来るだろ。それに俺は魔王ムーブしたいんだからな、準備すんぞ」


 怒りを表しているのか、ブンブンと大きく動かす尻尾を宥めるように撫でて、以前買っていた玉座を広間で組み立てようとしていた。


「やべ、なんか折れた」

「ワタシがやろうか」

「全壊だわ大人しく俺を見てろ」


 どのパーツか分からないが壊してしまった俺が言えたことじゃないが、サラに制作を交代するのは絶対に論外だ。


「組み立てられないに一票」

「バッカ、こんなもんちょちょいだ」


 別のパーツにヒビが入ったのを確認して、後で購入店に殴り込みに行こうと決意した。店主以外から買ったからこんなことになったのか。

 

 トラブルにならないようなクレームの付け方を考えていると、広間のドアの隙間から燦々と輝く光が俺の瞳孔をチリチリと刺激する。


「――ホーリーフレア!」


 痛々しい単語が耳に届くと同時に、ドアが激しく爆散する。


「サラ・ドラゴはいるかな?」

「おいお前、サラが唯一壊してないと言っても過言ではないドアをいとも容易く壊しやがったな……」


 薄汚れたマントで高そうな鎧を隠すそいつは、俺が酒場で出会った鎧イケメンそのものだった。そんな布一枚で正体を隠せると思ったんだろうか、バカなんだな。


「おや、君はあの時僕にスプーンを投げつけた人だね。持病は治ったかな?」

「あの時はご馳走様、美味かった。持病治る気配がないんだ」


 俺が投げる木片をヒラリとかわす鎧イケメンは、「酔ってるようには見えないんだけど?」なんて言っている。顔や態度に出ないだけで酔ってる可能性だってあるだろ。


「道具を求めてここに迷い込んだんなら帰れよ、うちは雑貨屋じゃねぇんだ。サラ・ドラゴなんて道具取り扱ってねぇ」


 下手にこいつと関わるつもりはない。だから俺は背を向けて玉座を組み立てている。思いの外はやく訪れたせいで出番を失ったが、こいつの話を無視するいい口実にはなるだろう。


 あ、でも忠告はしといてやるか。


「道具のサラはいねぇけど、怒り狂った俺の部下サラ・ドラゴがいるから気を付けとけよ。油断したら死ぬぞ」

「――! 殺気を隠せてないよサラ。弱くなった?」

「気安くワタシの名前を呼ぶなクソ野郎!」


 激昂するサラの蹴りを予測したかのような動きを見せる鎧イケメンは、輝きを放つ剣の腹でしっかりと防御する。さすが一応勇者といったところか


「僕のところへ戻っておいで。こんな陳腐な男に騙されるから弱くなるんだ」

「ふざけるな! 戻るわけないだろ!」


 蹴りの体勢から尻尾を駆使してそのまま反対の足で蹴りを加えるサラ。なるほど、尻尾で体を浮かせば何発でも飛び蹴りに似た技が出来るのか。便利でいいな尻尾。

 勇者も気圧されているし、これに懲りて一生俺たちに関わらないで欲しい。


「仮にも魔王の拠点に乗り込んでくるなんていい度胸。それに竜人のワタシに一人で勝てると思った?」


 サラが繰り出す猛攻に、最初は防げていた勇者も今では何発もモロにくらっている。こいつ頑丈だな、俺なら二発でダウンだろう。


「もう気は済んだかな? 僕は顔も売りなんだ、これ以上は遠慮してもらうよ」

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