第5話 天才

 アイツはたしかに天才だった。自分の中の痛みを隠すことの。

パシャパシャ

「受賞おめでとうございます」

「なぜこのテーマで研究しようと思ったのですか」

 10数年後、俺は記者会見を受けていた。研究テーマは「虐待時において子にかかる精神的不安」だ。様々な行動や言動、そして虐待の度合いやパターンを鑑みて精神状態を数値で表したものだった。これに当てはめれば、アイツの精神状態は相当不味いことになっていたはずた。それでも強くいたアイツを俺は尊敬するし理解できないとも思う。

「はい、この研究は……」


 仕事の外では普通の家族に戻る。妻がいて、子供が2人。優しくて暖かい家族を俺は持っていた。

「お宅のお父さんは優しくて良いですねぇ」

「いえいえ」

 にこにこと受けごたえする妻は優しく美人で、たぶん少しだけ母親に似ている。アイツが生きていたら多分そう言って口説くと思う。俺だって絶対に渡さないように頑張る。だって愛しているのだから。

 公園に行って子どもたちを遊ばせる。たくさんの遊具ではしゃぐ我が子というものは本当に可愛い。

「元気ね」

「そうだな。のびのびと育ってほしいと思うよ」

 2人で見守っているこの時間すら愛しいと思う。

 帰り際、すれ違った女性が妻の長袖の下を見て驚いた顔をした。そして首、腹、顔を見て怪訝そうに去って行った。そういえば、俺の妻は顔に大きな絆創膏を貼っている。俺からの愛の証を隠すなんて、いけない子だ。帰ったらまた言い聞かせなければいけないな。

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天才(仮) 堕なの。 @danano

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