第2話 俺の友人

 俺の友人は変なやつである。周りの人間は自称天才と読んでおり、突飛な行動が非常に目立つ。よく付き合ってられるなと先生からもクラスメイトからも言われるが、俺にとってこいつは愉快なやつで一緒にいるのは楽しいからなんら問題は無い。筈だった。

 まさか家に行きたいと言うなんて。うちの親は、なんというか普通じゃない。家にいないことを願おう。

「ここがお前の家か」

「そうだよ」

「む、なんだ。元気がないな?」

 こいつに悟られるとは、俺は本当にこいつに知られたくないらしい。

「静かにしろよ」

「ああ、もちろんだ!!」

 話が通じなさすぎる。この時間は親が寝ているため、物音を立てないようにしないといけないのだ。一抹の不安を抱えながら、玄関のドアを開けた。

「きれいだな」

 こいつのことだ。家に連れていきたがらないから汚いとか思われていたのだろう。心外だ。

「お前の部屋はどこだ?」

 階段昇った二階。そこまで行けば親は起きないはずだ。起こしたらあとが怖いからな。そこだけは静かにさせないと。どうすればこいつは静かに……

「おい!」

 終わった。絶対起きた。この後どうすれば、

「なんで返事しない!」

 あ、俺、無視してた。

「ごめん」

 後悔と、申し訳ない気持ちに包まれた。コイツは悪くないのに、傍から見れば八つ当たりみたいな感じになってしまった。

「別にいい。俺は優しいからな」

 こういうところが好きで嫌いだ。俺には無い。

 だが、俺たちが仲直りしたところで、叫んだ事実が消えるわけではない。親に怒られる。

「あら、お友だち?」

 だが予想に反して、部屋から出てきた母親が出したのは優しい声だった。まるで他の家にもいる普通の母親のような声。

「あんまり似てないけど美人ですね。お名前は?」

「あらあらありがとう」

 その笑顔も、整形で若作りしている顔も気持ち悪い。よく似てないと言われるが当たり前だ。母親の顔に元々の原型など残っていない。

「でも、笑い方は似てますね。こう、なんか、綺麗に笑ってます」

 俺も、母親も驚いた。似ているなど言われたことがない。似てないという言葉の外にある意図に晒され続けてきた。こいつの言葉は真っ直ぐで、思っていないことは言わない。こいつが似ていると言ったのならば似ているのだろう。

 いつもは鈍感なくせに、不思議なところで聡くて敏感。俺に似ていると言われた母親はイラッとした顔をしていたが、俺は何だか嬉しかった。嫌いな笑顔に似ていると言われたはずなのに、どこか心は暖かくなっていた。

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