45
新次郎が刀の
薩摩の示現流には、このような跳躍技は、ない。
この男が示現流遣いだとすれば、独自の工夫を加えたのであろう。
次の瞬間、風を切る音を立てて、男の剣が新次郎の頭を目掛けて振り下ろされた。
新次郎は、上に向かって抜刀したが、剣先は下に向いたままだ。
ジャッ!!
金属が擦れる音がした。
新次郎は、下向きの自分の刀を潜り抜けるようにして、敵の斬撃を下方に逸らしたのだ。
この「擦り抜け」の技法は、各流派に存在するもので、珍しいものではない。
が、命懸けの真剣勝負の場で誰もが正確に遣えるものではなかった。
互いに入れ違って數歩前に進み、再び向き合った。
「ほう、思ったより、やるな」
幽鬼のような顔の男が言った。
「これで五十両は、ちと安いな」
新次郎が前に出ようとすると、男は片手を上げて制した。
「待て、今のはほんの挨拶代わりだ。仕事料を百両に上げて貰ってから、また来るわ」
「誰に頼まれたか分かっておるが、相変わらず
新次郎がそう返すと、男は笑って、
「もう、縁は切ったのであろう。お主が謝ることはないわ」
言いながら、刀を鞘に納めた。
そして、ゆっくりと後退りながら、
「言っておくが、今のは俺の全力ではないぞ。せいぜい、七分の力だ。次に会う時は、手加減はせぬ」
と言うや、クルリと
(今のが、七分の動きか・・・)
新次郎は慄然としながら納刀し、先ほどと同じ方向へ歩き始めた。
とりあえず、あかねの顔を見ておこう
——そう思ったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます