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それは、突然に襲い来た。


爽やかに晴れた早朝、新次郎は仕事場への道を、ゆっくりと歩いていた。

いつも通り、あかねの差し入れてくれた朝飯を食べ、満ち足りた気分で大川端へ出た。

以前、金で雇われた大膳を誘い込むために進んだ武家屋敷に挟まれた道は、通り越している。

こちらが、本来の出勤コースなのである。


新次郎は、土堤の上の道より、その下の川沿いの道を好んで歩いた。

今朝も、秋の涼風を身に受けながら、のんびりと、あかねの働く茶屋の方へと歩を進めていたのだが——


は、そこにいた。

「黒い塊のようなものが、六間ろっけんほど先に、うずくまっていた。

新次郎は、思わず足を止めた。


(何だ? さっき見た時は、いなかったぞ!?)

新次郎は、真っ直ぐ前を見て歩いていたのだが、ふっと大川の方へ目をやった。

そして、視線を戻した時にが居たのである。


立ち上がったそれは、男であった。

背は五尺五寸ほどで新次郎より低いが、髷を結わぬ黒髪を肩まで垂らし、黒い小袖の着流し姿。履いている足袋たびまで、真っ黒であった。

そしてその顔は、目が落ち窪み、頬骨が突き出て、まるで「幽鬼」のようだった。


「香坂・・新次郎だな?」

「——そうだと言ったら?」


刹那、男は抜刀し、凄まじい速さで新次郎目掛けて駆け寄って来た。

刀身は、高々と右八相に固定されている。


「チィエエエ——イ!!」

男の口から、絶叫とも言える気合が迸った。


(薩摩の、示現流か!?)

新次郎の総身に、冷感が走った。

一撃必殺、初太刀に全てを賭ける、恐るべき剣術である。


(だが、もう避けるのは無理だ!)

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