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「雪江どのも年ごろになり、男子が居らぬゆえ、婿を取らねばならないのだが、何しろあの気性、『自分より強い人でなければ、嫌!』とのことでな」

「ははあ」

大膳が、苦笑した。


「それが二年前の話なのだが、その時点で雪江どのより強いといえば、高瀬師範、志田師範代、それに——」

「香坂新次郎、か」

「まあ、そうだ。だが、群を抜いて強かったのは、やはり高瀬どのでな、大師匠もその腕を見込んで、雪江どのとの縁談を進めようとしていた矢先であった。志田師範代は、少し残念そうであったがな」


「そう言うお主は、どうだったのだ?」

「わしか。わしは部屋住みの身で、婿入り話なら願ったり叶ったりだったが、家でごたごたがあっての。とてもそれどころではなかった」

そう言う新次郎の瞳は、憂いを帯びていた。


「それにな・・・」

新次郎が続けた。

「道場の跡を継げば、当然、小野派一刀流の教授で身を立てていかねばならぬ」

「それは、当たり前ではないか」

「そうなのだが・・・」


「おお、そうか。お主、最前、小野派一刀流以外の剣法を修行したようなことを・・・」

大膳の問いに、新次郎は小さく頷いた。

「そうなのだ。わしが十七の時じゃった。家に、親父どのの古い知り合いとかいう、爺さんが寄食しておつてな。その爺さんから、習ったのだ」


「流名は?」

「仙台の方に伝わるという剣法でな。名を・・・天意心極流てんいしんごくりゆうという!」

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