41
「雪江どのも年ごろになり、男子が居らぬゆえ、婿を取らねばならないのだが、何しろあの気性、『自分より強い人でなければ、嫌!』とのことでな」
「ははあ」
大膳が、苦笑した。
「それが二年前の話なのだが、その時点で雪江どのより強いといえば、高瀬師範、志田師範代、それに——」
「香坂新次郎、か」
「まあ、そうだ。だが、群を抜いて強かったのは、やはり高瀬どのでな、大師匠もその腕を見込んで、雪江どのとの縁談を進めようとしていた矢先であった。志田師範代は、少し残念そうであったがな」
「そう言うお主は、どうだったのだ?」
「わしか。わしは部屋住みの身で、婿入り話なら願ったり叶ったりだったが、家でごたごたがあっての。とてもそれどころではなかった」
そう言う新次郎の瞳は、憂いを帯びていた。
「それにな・・・」
新次郎が続けた。
「道場の跡を継げば、当然、小野派一刀流の教授で身を立てていかねばならぬ」
「それは、当たり前ではないか」
「そうなのだが・・・」
「おお、そうか。お主、最前、小野派一刀流以外の剣法を修行したようなことを・・・」
大膳の問いに、新次郎は小さく頷いた。
「そうなのだ。わしが十七の時じゃった。家に、親父どのの古い知り合いとかいう、爺さんが寄食しておつてな。その爺さんから、習ったのだ」
「流名は?」
「仙台の方に伝わるという剣法でな。名を・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます