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雪江が、思わず身を乗り出した。

鎖鎌術の要諦は、鎖と分銅で相手の太刀を絡め取ることにある。

刀を取ってしまえば、相手が宮本武蔵のような二刀遣いでない限り、勝負は決したも同然であった。


新次郎が、瞬時に反応した。

そして、飛び来る木球に、木刀一閃!


カンッ!


高い音を立てて、木球が宙に跳ねた。

新次郎の剣が、正確にそれを弾いたのだ。

慌てて木球を引き戻そうとする浪人。


が、木球が引き戻されるより速く、新次郎が太った浪人の目前まで迫っていた。

凄まじい「寄り身」である。

雪江が息を呑み、大膳が

「おおっ」

と声を上げた。


木球が戻り切らない浪人、思わず、もう一方の手に持つ、木製の鎌を振り上げようとした。

だが、一瞬遅く、

「せいっ!」

という気合と共に新次郎が放った猛烈な体当たりを喰らってしまった。

浪人は二間にけん以上も吹っ飛び、木刀立てのある板壁に激突して倒れた。

バラバラと、木刀や竹刀が衝撃で床に落ち、音を立てる。


それを確認する間もなく、新次郎はクルリと反転した。

新次郎の寄り身の速さに遅れを取った鷲鼻の浪人が、ちようど木剣を振り下ろしてくるところだった。


寸前に間に合った新次郎は、すかさず相手の木刀に自身の剣を絡め、「巻き落とし」を掛けた。


カラリと両者の剣が鳴って、鷲鼻の浪人の木刀が、床に落ちた。

間髪を入れぬ新次郎の面打ちが、浪人の額の一寸前で、ピタリと止まった。






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