31

カッ、カッ!!


数度、木刀を打ち合う音がして、跳び違いざまに、浪人者の剣先が大膳の横鬢よこびんを狙い、大膳が危うく首を振ってこれをかわした。


「ほう、なかなかやるな」

と、痩せ浪人。

「お主も、な」

と、大膳。


浪人者が木刀を右八相はっそうに構え直した。

大膳も、大上段に構える。


(例の、三段斬りかの? 脛斬りは使うなと言ったんじゃが)

新次郎が見つめる横で、雪江も顔を上げて二人の闘いを凝視していた。

剣士の顔だ。


一瞬の間ののち、二人が同時に木剣を振り下ろした。


カンッ!!


甲高い音で剣がぶつかり合い、弾かれた木刀を、浪人者は水平に回して大膳の胴へ、大膳は下段から浪人者の脇へ——


ゴッ!!


鈍い音がして、一瞬速く、大膳の剣が浪人者の脇へ入った。


「ぐっ」


うめき声を発して、浪人者が床に転がった。

大膳は、剣先を下に向けて、「残心」の構えだ。


「それまで、だの」

新次郎がそう言って立ち上がった。

雪江も、目を見張って、大膳を見ている。

やや小太りで、風采の上がらない彼の鋭い剣技に、胸を突かれたようであった。


「遣い手ゆえ、手加減は出来なかったが、肋骨あばらは折れてはおらんだろう。ヒビは入っておるかも知れんが、な」

少し呼吸を乱しながらも、余裕の笑みで、大膳が言った。


(なるほど、三段斬りの一段を省いて、二段斬りというわけか)

新次郎は、顔見知りの道場生に目配せをして、木刀を数本、持って来させた。

そして、その内の一本を選ぶと、大膳を下がらせた。


「次は、わしが出よう。雪江どの——」

新次郎は、正座したまま見上げる雪江に、ニコリと笑って言った。

「大丈夫、心配はいらぬ!」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る