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「よし、約定は守ってもらうぞ!」
雪江と竹刀を交えていた痩せた浪人が、手にしていた竹刀をポーンと背後に放り投げ、道場式台脇の木刀掛けから、木刀を一振り、無造作に掴み取った。
「女子供相手ゆえ、竹刀で相手してやったが、遊びは終わりだ」
そう言うと、ブンッと一度素振りをくれて、新次郎の方へ歩み寄って来た。
「わしは、竹刀でも良いんだがの」
と、新次郎。
「臆したか。何なら、本身(真剣)でも良いんだぞ」
痩せた浪人が、嘲って笑った。
「やむを得んか・・・」
新次郎が木刀掛けに視線をやった時、背後から大膳の声がした。
「いや、まず俺が出よう」
見ると、いつの間にか木刀を手にした大膳が、目に怒りを湛えて立っていた。
「
愛妻家の大膳らしいセリフをぼそりと言うと、新次郎の前に出ようとした。
「おい、大膳。刀!」
「おお、そうか」
大刀を腰に差したまま行こうとする大膳に、新次郎は手を差し出した。
そして、刀を受け取る時にそっと、
「『脛斬り』は使うな。一刀流でないのがバレる」
と囁いた。
「承知」
大膳は頷き、痩せた浪人の前に立った。
「いざ!!」
「おう!!」
互いに気合いを掛け合い、審判などいない、木刀での真剣勝負が始まった。
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