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「なに、雪江どのを?」

「そうだ。見たところ、間違いなく生娘きむすめ。俺たち三人が、男の味を教えてやろうというのよ」

鷲鼻の男が言うと、隣の太った男が、

「やれやれ、お主の生娘好きにも、困ったものよ」

と応じた。

「ふん、商売女の、どこが良い。嫌がって泣き叫ぶのを、手篭てごめにするのが妙味というものだ」

「何が、妙味だ」

そう言って、二人で笑い合うのであった。


耳を塞ぎたくなるような遣り取りに、雪江が

「ぶ、侮辱すると、許しませんぞ!」

叫ぶように言った。

このような恥辱は受けたことが無いのであろう、体を震わせ、目には怒りの涙が浮かんでいた。


が、鷲鼻の男は、雪江の言葉など聞こえなかったかの如く、新次郎に向かって、

「どうする? それが嫌なら、看板は貰ってゆくぞ」

と促した。


新次郎は、すぐには答えず、雪江の方を向いて、

「雪江どの、座りなさい」

雪江に、壁際に下がるように言った。

「で、でも・・!!」

「いいから、わしに任せなさい」

「は、はい・・・」


新次郎の優しく、落ち着いた物言いに、雪江は壁際に正座して、俯いた。

悔しさをこらえているのであろう、膝上に置いた両の拳を、ギュッと握り締めていた。


師範代の志田作乃進しださくのしんに次いで、道場二番目の遣い手である雪絵だが、まだ道場剣術の域は出ておらず、海千山千の浪人たちには分が悪かったようだ。


「よろしい」

新次郎が言った。

「もし、わしらが負けたら、道場の看板、金十両、それに雪絵どのを持ってゆくが良い」


「こ、香坂さま!!」

これには雪江も思わず顔を上げ、ずっと成り行きを静観していた大膳も、「えっ」と言う顔で、新次郎を見た。


「どうかな」

新次郎が、静かに言った。


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