28
「なに、雪江どのを?」
「そうだ。見たところ、間違いなく
鷲鼻の男が言うと、隣の太った男が、
「やれやれ、お主の生娘好きにも、困ったものよ」
と応じた。
「ふん、商売女の、どこが良い。嫌がって泣き叫ぶのを、
「何が、妙味だ」
そう言って、二人で笑い合うのであった。
耳を塞ぎたくなるような遣り取りに、雪江が
「ぶ、侮辱すると、許しませんぞ!」
叫ぶように言った。
このような恥辱は受けたことが無いのであろう、体を震わせ、目には怒りの涙が浮かんでいた。
が、鷲鼻の男は、雪江の言葉など聞こえなかったかの如く、新次郎に向かって、
「どうする? それが嫌なら、看板は貰ってゆくぞ」
と促した。
新次郎は、すぐには答えず、雪江の方を向いて、
「雪江どの、座りなさい」
雪江に、壁際に下がるように言った。
「で、でも・・!!」
「いいから、わしに任せなさい」
「は、はい・・・」
新次郎の優しく、落ち着いた物言いに、雪江は壁際に正座して、俯いた。
悔しさを
師範代の
「よろしい」
新次郎が言った。
「もし、わしらが負けたら、道場の看板、金十両、それに雪絵どのを持ってゆくが良い」
「こ、香坂さま!!」
これには雪江も思わず顔を上げ、ずっと成り行きを静観していた大膳も、「えっ」と言う顔で、新次郎を見た。
「どうかな」
新次郎が、静かに言った。
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