24

新次郎が大膳を伴い、三人の若侍の後を追って歩き出すと、ちょうど茶屋から、あかねが出てきた。

手には、何も載せていない丸盆を持っている。


「あら、先生。どこ行くの?」

「うむ、ちょっと道場へな」

「また、アレなの?」

「うむ、アレだ」


以前にも同じことがあったのか、あかねは新次郎の要件を察しているようだった。


「ではな、あかねちゃん」

先を急ごうとする新次郎の片袖を、あかねが掴んだ。


「先生、やけに嬉しそうね?」

「えっ」

「あたし、聞いたわよ。その道場に、すっごくキレイなお嬢様がいるんですってね?」

見ると、あかねの両目が吊り上がり、頬が膨れている。


「ゆ、雪江どののことかの?」

なぜか、ちょっと吃ってしまう新次郎だ。

「キレイなだけじゃなくて、剣術も強くて、何とか小町って・・」

「いや、それはそうだが・・・」


あかねの迫力に押されて口籠ごもる新次郎に、若侍たちが助け船を出す。


「違うんだよ、あかねちゃん」

彼らも、あかねの働く茶屋の常連で、顔見知りなのである。

「その、お嬢様が危ないんだ! 下手をすると、大怪我をするかもしれないんだ」


「えっ」

さすがに、あかねも驚いた様子だ。

「まあ、大変! 先生、早く行ってあげてよ!」


(いや・・引き止めたのは、あんたなんだがの)


ちょっと憮然としながら、新次郎はそばにいる大膳を見た。

「行くぞ、大膳」

「・・・道場破りってとこかな?」


新次郎は小さく頷くと、若侍たちと共に、小走りで茶屋を後にした。




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