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見ると、三人の若侍たちは、剣術道場の稽古着を着て、その手に竹刀を持っていた。

息を切らしているそのさまは、稽古中に慌てて道場を抜け出して来たようだった。


「おう、神宮しんぐう道場の方々ではないか。どうなされたな?」

新次郎が問うと、若侍たちは、

「こ、香坂どの! 例の、アレでござる」

「急いで、道場にお越し願いたい」

「お頼み申す!」

と、口々に申し立てた。


「ああ、アレですか。ふむ・・・」

チラリと宗涼の方を見る、新次郎。


「今日は、三人の浪人者で、いずれも手練れの様子で」

「だが、志田師範代は?」

「そ、それが、出仕日で・・・」

「さようか」

「すでに、主教二人が倒され、今、お嬢様が応対中でござるが、危のうござる」

「雪江どのが?」

「香坂どの、急いでくだされ!」


「相分かった」

うなずいた新次郎は、まだ唸っている宗涼に、

「すまぬが、急用が出来たでの、この勝負はわしの負けで良い。百文持って帰ってくれ」

と願った。


「そ、そんな!」

と、非難の声を上げたのは、宗涼ではなく、その従者の与兵衛であった。

「勝負の途中で投げ出すなんて、坊ちゃまに失礼じゃありませんか! 無礼にも、ほどがありますぞ!」


「まあ、そうなんじやが・・・」

新次郎は、頭をポリポリと掻いた。

「人の命が掛かっておるでの。わしが謝っておったと、あんたからもよく言っておいてくれ」

宗涼はというと、そんな二人の問答が耳に入らぬかのように、盤面を凝視したままだった。


「香坂どの、早く!」

道場生たちにかされ、出かけようとした新次郎は、傍にいた棟田大膳に、

「大膳、お主も来てくれ」

と、声を掛けた。


「何だ、何事だ?」

訝しむ大膳に、

「とにかく、来い。幾らか稼げるぞ」

新次郎は、そう言って笑った。



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