19
奮闘虚しく、五手詰のチャレンジを五回繰り返して、二十五文支払ってすごすごと帰ってゆく佐吉を見送った新次郎は、文銭を
そして、そのまま次の客が来るのを待つ。
さすがに「呼び込み」まがいの事は、出来なかったのである。
と、詰将棋に没頭している新次郎の前に、黒い影が。顔を上げると、棟田大膳が立っていた。
「なるほど、これがお主の商売か」
大膳は、感心したように、将棋盤の置かれた床机を見渡した。
「子供の頃から、将棋がメシより好きでの」
そう言う新次郎の笑顔は、子供のようだった。
「奥方は、良いのかの?」
「ああ、お陰様でな。
積もり積もっておったせいらしい」
「そうか。ま、せいぜい養生させてやることだの」
「うむ。まだ小判が二枚あるから、暫くは大丈夫だが・・・」
と、大膳が何気なく新次郎の背後の永代橋の方を見上げると、何やらこちらを指差して話している者たちがいた。
二人の男たちで、町人風の身なりである。
大膳が黙って見ていると、彼らは橋を渡って、こちらは向かって来るようである。
「おい、香坂。新しい客のようじゃぞ」
新次郎が振り向くと、なるほど町人らしい二人連れが、こちらへ歩いて来る。
どうも、主従のような雰囲気である。
やがて、新次郎の床机の前まで来ると、
着ているものは、若竹色の着流しに、これも同色の羽織。
何れも高級そうな絹の羽二重である。
年齢は、二十代であろうか。
従者と思しき男は、四、五十代に見える。
その男が、主人の袖を引いて、言った。
「い、いけません、坊っちゃま! 将来の名人となられるお方が、このような大道将棋などに・・・」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます