15

「や、やめてください!」

あかねの声が続き、ほぼ満席の店内がざわついた。

「お客さん、ウチは、そういう店じゃないんで」

これは、店主の善助ぜんすけの声だ。


「何をっ!!」

野太い怒鳴り声と共に、人が倒れるような音、瀬戸物が砕ける音がした。

「おい、誰か! 誰か先生を呼んで来い!」

客の一人が叫ぶ声がした。


「呼んだかの?」

ここで新次郎が、のっそりと店に入って来た。


見ると、善助が地に尻餅を付いており、その後ろにあかねとおようが、抱き合うようにして立っていた。

そして、入口の所に、髭面ひげづらの大男が、袖を肩まで捲り上げて周囲を睥睨へいげいしていた。


露出した男の肩には、恐ろしげな髑髏どくろの彫物があったが、気の強いあかねは、そんな男をキッと睨みつけている。


新次郎に気づいたのは、おようが早かった。

「先生、そこの人、あかねちゃんのお尻、触ったんですよう!」

「ホントに、嫌らしいんだから!」

と、あかねも続けた。


「へっ、何が悪い、ケツの一つや二つ!」

まだ二十代とおぼしき髭男が、喚いた。

その息は、かなりの酒臭さだ。

「気取りやがって、どうせ店が引けりゃ、男の一人二人咥え込んで・・」


そこまで言った時、スッと近づいた新次郎が、男の片腕をじり上げていた。


「あだだだっ、は、離せ、離しやがれ!」


髭男が悲鳴を上げるのにも構わず、新次郎は通りの方へと、引っ張ってゆく。

「いてててッ! な、なんて馬鹿力だい!」

「力でなく、技だよ」

新次郎は笑ってそう言うと、男の腕を離して、ボンと肩を叩いた。


「今度、酒を抜いてから、また来なさい。その時は、あかねちゃんによく謝るんじゃぞ」


新次郎の笑顔に毒気を抜かれたか、髭男はガクガクとうなずくのであった。




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