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新次郎は、再びあかねのいる茶屋の前まで来ていた。


長屋には、大膳夫妻を置いてきた。

新次郎たちが住む長屋の一番奥まった所に、他の家作より少し大きめな平家が立っていて、そこが大家の家だった。


大家(差配とも言う)といっても、現代とは違い、長屋の所有者ではない。

長屋の持ち主(家主)から、長屋全体の管理を任されているのが、大家である。


大家を訪ね、大膳夫妻のことを説明し、新次郎の隣の部屋への入居を頼んだ。

大膳が紹介状を持っていないにも関わらず、大家は「先生のお知り合いなら」と、二つ返事で了解してくれた。


「香坂、お主、何者だ?」

大膳は訝しげに訊いて来たが、新次郎は、笑って答えなかった。


大膳は、新次郎殺しの前金として三両貰っていたので、そのうち一両を大家に渡し、家賃の前払い、鍋釜、夜具などを頼んだ。

そして時枝のために医者の手配も頼んだところで、新次郎は後を大家に任せて、長屋を出て来たのであった。


(さて、ずいぶん遅くなってしまったが、仕事にかかるかの)

新次郎がそう思った時、


「きゃあっ!!」

茶屋の中から、あかねの悲鳴が上がった。

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