12

「いや、ちょいと野暮用でな」

新次郎と大膳は、茶屋の横まで来て、あかねと話していた。


「ふう〜ん、そちらの方は?」

あかねが、大膳を見て、訊いた。

あかねは、相手が侍であろうと、

気後れするようなところは見せなかった。


「うむ、今日、友達になった、大膳どのだ」

「棟田大膳と申す。よしなに」

大膳がすかさず、頭を下げた。


「あ、あら、嫌だわ。お侍さまに頭を下げさせるなんて」

あかねはちょっと頬を赤らめて、深々とお辞儀をした。

「あかねと申します。先生が、お世話になってます!」


このセリフに、茶屋の腰掛け席から、

「ようよう、まるで夫婦めおとだねえ!」

「いつ、祝言を挙げたんだい?」

などど、冷やかしの声が上がった。


「やだ、もう!」

あかねは耳たぶまで赤くなって、店の奥に駆け込んでしまった。

ドッと起こる笑い声は、みな暖かだった。

あかねが、客たちから好かれているのがわかる。


と、店の奥から、あかねと入れ替わるように、若い娘が出てきた。

「あら、先生、今日は遅いんですね」

ニコッと笑ったその顔は、あかねほどの美形ではないが、

愛嬌のある丸顔で人気の、おようであった。


「おお、おようちゃんか。わしはこの大膳どのと、ちと用があるでの。

また後で来ると、あかねちゃんに伝えてくれんか」

「はあ〜い。でも、なるべく早く来てくださいね。

先生がいないと、あかねちゃん、機嫌が悪くって」

「さ、さようか・・・」


新次郎もちょっと赤くなって、

それを誤魔化すように、大膳の方に顔を向け、

「さて、行くかの」

と言った。


大膳は、笑いを噛み殺したような顔で、

「うむ」

と、頷いた。






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