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新次郎と棟田大膳は、永代橋のたもとで、

巨大な橋を見上げていた。


「何とも、雄大な橋じゃのう」

大膳が、感じ入った様子で言った。


青々とした水を湛えた川には、沢山の船が

行き交い、江戸の町の活気をそのまま表しているかのようだった。


「香坂どの」

「香坂、でいい」

「うむ。なら、俺のことも大膳、と呼び捨てにしてくれ」

「相わかった」


「で、香坂よ。この橋を、例の赤穂浪士たちが、渡って行ったのだな?」

「ああ、吉良の首を下げて、泉岳寺へ向かってな」

「何か、感慨深いのう」


大膳は、橋の大きさと川幅の広さ、通行する人の多さに、

圧倒されているようだった。


新次郎も、言葉は発しなかったが、昔日の義士たちの姿を、

橋の上に重ねていた。


「さて、そろそろ行かんと、奥方が待ちかねておろう」

「む、そうであった」

新次郎は、八丁堀の安旅籠に残して来たという大膳の妻を、

一緒に迎えに行くことにしたのだ。


「大膳、すまんが、ちょっと寄るところが」

「うん?」

「それ、そこに茶屋があろう」

「おお、ずいぶんと繁盛しとるな」


永代橋西詰のすぐ脇に、一軒の茶屋があった。

大勢の客の間を忙しそうに働いていた茶汲み娘が、

何気なく新次郎たちの方を見た。


「あ〜っ、先生!! どこ行ってたの?」

それは、朝方に新次郎より先に長屋を出て行った、

あかねであった。

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