9
男は、眉根を寄せながら、目を開いた。
「う・・む・・・?」
「気がつかれたかの?」
「やっ、貴公は」
慌てて身を起こそうとした男は、左の首筋に手を当てて、
「痛たた・・・」
と、呻いた。
「峰に返したが、大丈夫かな」
「そうか・・俺は、負けたか・・・」
男は、大川の方を見遣りながら、ボソリと言った。
「お主、名は?」
「
「ふむ」
「香坂どの。なぜ、斬らなかった?」
「さて・・・なぜかの?」
新次郎も川面へ目を遣りながら、返した。
秋風に柳の葉がそよぎ、陽光を散らした。
二人とも大川を眺めながら、じっと黙っている。
行き交う船から、人の声が聞こえて来る。
「棟田どの」
「大膳で、いい」
「大膳どの、人を斬ってまで、金が要る理由とは?」
「うむ・・・」
首筋から手を離して、棟田と名乗った男は両肩をぐるぐると回した。
「まあ、妻女が居ってな」
「奥方が?」
ちょっと照れくさそうな顔で、棟田が頷いた。
「それが、病弱でな」
「それで、
「ああ」
「さようか・・だが、人斬りは、いかんぞ」
「うむ、わかっておる。今日が初めてだが、もう懲りた」
棟田大膳なる男、むさ苦しい成りだが、悪い男ではなさそうだった。
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