「殺気を感じる」──

よく使われる表現だが、感じ方は、人それぞれである。

そもそも欧米人には、この言葉の意味が分からない人が多いという。

目にも見えない、科学的に証明もされていない。

そんなものが存在するのか、といったところらしい。


が、われわれ日本人は、幼児でさえそれを理解している者がいる。

当然のこととして。

日本人が心地よく感じる虫のが、欧米人には「雑音」にしか

聞こえないというのと、同じことかもしれない。


ともあれ、新次郎の殺気の感じ方は、「背中に風を感じる」というものだった。


背後に殺気を感じた新次郎は、表情を変えることなく、歩みもそのままだった。

だが、左手に曲がり角が現れると、そこを折れた。

いつもはそこには入らずに、真っすぐに大川を目指すのだったが。


入った道は、両側が武家屋敷の塀に挟まれた、三間さんげん(6m弱)ほどの

通路だった。

一町いっちょう(109m)ほど続くその道には、町人はもちろん、

武家屋敷の奉公人の姿すら、無かった。


通路の半ばまで歩いて、新次郎は立ち止まり、

「・・・さて、わしに何か用かの?」

振り返らずに、背後に向けて声をかけた。

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