第48話

「ふむ」


 薄暗い部屋に男が一人、椅子に腰掛けている。彼は顎に手を当ててなにやら思案していた。それは丹波に力を与えると言っていた男だった。 彼はなにやら水晶のようなものに映し出されている映像を見ている。それに映し出されていたのは隠岐と丹波だった。池袋のダンジョンで隠岐がコキュートスの力を使った時の映像が再生されている。


「彼はやはり失敗したか、しかし私のスキルを試すのには有益だった。あの少年と戦わせて彼の力を見るための道具としても役に立ってくれたしな」


 彼は満足そうな表情を浮かべていた。正直丹波に関しては彼にとってもどうでも言い人間でしかなかった。彼が本当に興味があったのは隠岐のほうである。正確には彼のスキルについてだが。

 正直丹波のような人間が自分の側にいても百害あって一理なしなのだ対して強くもないのに自分が一番だと思い、自分の都合のよい現実しか見ようとしない。他人に献身もせず、利益ももたらさないようなこのような人間は健全に人間関係を築くことは出来ない。道具として使い潰してよいタイミングで処分するのが一番よいのだ。今回は彼のそういった気質が隠岐を動かすために都合がよかったから利用しただけに過ぎない、結果としては彼は素晴らしい役割を果たしてくれた。


「それにしてもあの少年……隠岐 遥のスキルは本当に興味をそそられる。一体なんなのだ、あの力は」


 秋葉原のダンジョンから彼をずっと観察しているが彼のスキルの全容は以前として見えてこない。丹波から聞いた話によれば最初に彼と戦った時には炎を消す力を使用していたということだが今回は周囲を凍らせる力を使っていた。普通のスキルではあのような多彩な力は得られない。


「スキルの全容が掴めない。だからこそ面白いのだが」


 いずれにせよ彼の観察は続けることにしようと彼の心は決まっていた。これほど面白いサンプルは他にないからだ。見ていて飽きない観察は本当に久しぶりだ。


「あら、また陰険な男がなにか企んでいるのかしら?」


 女性の声が部屋に響く。秋葉原のダンジョンで彼と行動を共にしていた女だった。


「君か」


「それ映像宝珠よね、なに見てるの」


「ああ、これか。彼の戦闘を記録した映像だ、見るかね」


「例の少年の? 見せて」


 女性は彼が見ている映像に興味を持ったのか水晶を覗きこむ。黙ったまま映像を彼女は真剣に見ていた。


「これどんなスキルなの? 彼の力、聞いてた話と違うんだけど。氷の力なんて聞いてないわよ」


「私もそんな話を聞いていないさ。この戦闘で始めて彼もこの力を使ったんだ」


「……なにそれ。一つのスキルでそんなに多才な力が使えるわけ? 今までにそんな人間っているの?」


「いいや、いないとも。彼が初めてだろうな。あるいは私達の気付かないところではいたのかも知れないが」


「ふーん。でも面白いわ」


 映像宝珠から目を放すと女性は男性のほうを見る。


「ねえ、私にこの子と戦わせて。彼のスキルがなにかを必ず突き止めてみせるから」


 その瞳は戦いたいと訴えていた。今の映像のせいで闘争本能が彼女の中でかき立てられてしまったようだ。


「まあ、待て。正体が掴めていないのに戦いを始めるのは危険だぞ、なにせ準備がまだ出来ていないのだから」


「またそれ、いつになったら私は闘えるのかしら。あー、つまらない、せっかくいい戦い相手を見つけたと思ったのに」


 心の底から残念そうに女性はいうと男性から離れる、明らかに拗ねていた。 


「だがあの丹波という男の末路については楽しめただろう? 人が破滅していく様を見るのは君の好みだったはずだが?」


 男の言葉に女性は口の端をつり上げて残忍に笑う。


「まあね~。ああいうプライドだけ高い馬鹿が自分の愚かさで自滅していくのは見ていて面白いわ。その点はあんたの今回のショーは合格よ、あの丹波ってやつは本当に馬鹿みたいに舞台で踊ってくれたから」


 けらけらと高い笑い声が部屋に響く。彼女の笑う姿はまるでおとぎ話の魔女のようだった。


「ふむ、満足してもらえたようでなによりだ」


「でも早くあの少年とは戦わせてね。こっちは戦いたくて仕方がないの」


 女性はそう言って部屋から出て行く。彼は再び一人となった。


「さて私の能力もいろいろと試してきた。そろそろ次の段階へと移ろうか」


「おや、動くのかい?」


 部屋に新たな声が響く。さっきの女性とは別の人間が部屋の入り口に立っていた。20歳くらいの青年だ。


「ああ、私のスキルでどれだけのことが出来るかも把握出来てきた。我らの行動を次の段階へと移す時だ」


「彼女とさっき会ったけど凄く不満そうだったよ。大丈夫? 勝手に行動したりしない~?」


「大丈夫だ、彼女も最低限の協調性はあるし、抱えている不満も我らが行動し始めれば解消されるだろう。我らが表舞台に立つ時も近い」


 青年は言葉を聞いてくすりと笑う。


「いよいよだねえ。あなたの目的を果たす時はもうすぐと言うわけだ、僕も心が踊るよ」


「その時は君にも動いてもらうことになる。どうかよろしく頼むよ」


「任せておいてくれ。僕はあなたの目的に惹かれているからね。あなたの行動を全面的に指示しているし、最後まで付き合うさ。裏切ったりなんてしないよ」


 青年の言葉を聞いて男は微笑む。そうして二人は暗い部屋から去っていった。

 

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魔剣の少年の無双譚~スキルに目覚めたことで僕の人生は変わった~ 司馬波 風太郎 @ousyo

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