第47話
「はい、二人とも回復したのを祝ってかんぱーい!」
「楓、乾杯ってお酒じゃないんですから……」
「まあまあ固いこと言いっこなし、こうして二人が無事に戻ってきてくれたしさ」
あの丹波くんの一件から数日後、僕達は不知火さんの提案で一緒に食事をするためにギルドのパーティーの部屋に集まっていた。岩代さんは用事があるとのことで今日は参加していない。
「本当にごめんなさい、迷惑かけて……」
和泉さんが申し訳なさそうに謝る。
「いいって。第一あの一件は和泉さんが悪いんじゃなくてあの男が割るいんでしょ。しかし本当に面倒くさい男だったなあ」
不知火さんは不快感を隠そうともせず、はっきりと丹波くんへの嫌悪感を示す。どうも出雲さんに手を出したことで彼に対しての印象が最悪になったようだ。元々は興味がなかったようだけど今ははっきりと嫌悪感を示している。
「その……皆さんごめんなさい。彼の今回の行動は元はと言えば彼と僕が仲が悪かったのが原因です。そのせいで……和泉さんや出雲さんが酷い目にあって不知火さんや岩代さんも巻き込んでしまった。本当にすいません」
「いいんだよ。まあ梓と和泉ちゃんは散々な目にあっちゃったけどさ。結果的に彼がこうなったことで君も解放されたわけだし」
「そうです。終わりよければすべてよしですよ、隠岐さん」
「はい……」
「それはそうとあの男……結局死んだんでしょ」
「……」
思い沈黙が場を支配する。誰もが口を噤み、言葉を発しようとしない。
そう、あの後丹波くんは謎の死を遂げた。
僕に負けた彼はあの後、駆けつけたギルド本部の職員に連れて行かれた。彼が使った力にはおかしな点があったため、彼に事情を聞いた後しかるべき処分を下すということになったのだ。
しかし聞き取りを始めようとした時、彼が突然苦しみだし血を吐いて倒れたのだ、そしてそのまま息を引き取ったという。僕も岩代さんから聞いた話だからそれ以上のことは知らない。
「……彼は僕と戦った時にずっと俺はある人間から力を授かったと言っていました。誰かが彼をそそのかしたのは間違いないと思います」
「彼から事情を聞ければあの謎のモンスターのことも多少は分かったかもしれないのに残念です」
和泉さんが悔しそうに言う。彼から情報を引き出せればいろいろと見えてきそうなだっただけにこの点は残念だ。
「……なんだか不気味で嫌ですね、私達が知らないところでなにかが進んでいるっていうのはあまり気持ちがいいものではありません」
和泉さんが不安そうに言う、その点は僕も同意だ。こっちに情報が不足しているのになにかが動いているというのはあまりいい状況ではない。相手にいいようにされているのと一緒だ。
「はい! 重い話はそれまで! これ以上そのことを考えても今のあたし達じゃ分からないんだしさ、今日はそんなことより和泉ちゃんと梓がちゃんと戻ってきたことを素直に祝おう!」
場の空気が重くなったのを変えるために不知火さんがぱんと手を叩く。
「そうですね、今は不知火さんが言うことのほうが正しいです」
いろいろと不安なことがあるけれども今は二人がちゃんと二人が戻ってきたことを喜ぶべきだ。僕は気持ちを切り替えるためにも場に容易された食べ物を口に運ぶ。
「たまには楓も役に立ちますね」
すっかり傷も治った出雲さんが不知火さんに辛辣な言葉を浴びせかける。彼女も酷い怪我を負っていたけど和泉さんのスキルによって速く回復することが出来た。
「ああー、また酷いこと言うー! そんなこと言うならもう次は梓を助けてやらないぞ!」
ふてくされたように言う不知火さん、その彼女を見て笑う出雲さんという光景に僕も自然と笑みがこぼれてきてしまう。
「ねえ、隠岐くん」
僕の隣にいる和泉さんが僕に話しかけてくる。彼女は自分の怪我をスキルで治してしまっていた。一応ギルドの医療スタッフにも見てもらったけどもう大丈夫という診断を受けたらしい。
「本当にありがとう。助けに来てくれて」
「ううん、むしろ巻き込んだんだのは僕なんだし君を助けに行くのは当然だよ。ちゃんと救えてよかった」
和泉さんのほうを見ると少し顔を赤らめているようだ、ん? 僕はなにかおかしなことを言ったかな?
「……あの和泉さん、どうしたの?」
「別に……はあ、もうどうしてためらいなくそういうことを言えるかな……」
そのまま彼女は黙り込んでしまう、えっどういうこと?
別方向からの視線を感じてそちらを見ると不知火さんがジト目で僕を見ていた。
「し、不知火さんまでどうしてそんな目で見るんですか……?」
避難されるように
「……自覚なしの一級フラグ建築士め! そういうところだよ! あたしはもうなにも言わないぞ!」
不知火さんはそう叫ぶとそっぽを向いた。ええ……ほ、本当になにに怒ってるんだ……。
「はあ……流石に今のやりとりを聞いて反応を見ていたらこういうことに疎い私でも分かりますよ。神楽は苦労しそうですね……」
飲み物を飲みながら出雲さんまで僕に突っ込むような発言を入れてくる。その後の食事会は僕が三人から生暖かい視線を送られながら時間が過ぎていった。
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