第46話

「ははははははははは!! こりゃいい!」


 逃げ回る僕をいたぶっていた丹波くんから高笑いが聞こえてくる。


「相手を一方的に打ちのめせるとはな! ああ、どんどん力が湧いてくるぜ」


 聞くに堪えない笑い声に僕は苛立ちながら、僕は彼に向き直った。


「おっ? なんだあ、ちょこまか逃げ回るのはやめたのかあ?」


「うん、君を倒す算段がついたからね」


 僕ははっきりと彼に言い放つ。僕の言葉を聞いた彼の顔が強ばった。


「……これだけみっともなく逃げ回っておいて俺を倒す算段がついただと? ああ、やっぱり俺はお前のような弱い人間がそんな表情をするのが気に入らねえ」


 完全に八つ当たりな発言にももう呆れることもない。彼はそういう人間なのだ、だからここで終わらせる。もうスキルがない時の僕じゃない、今の僕には彼を倒して和泉さんやパーティーのメンバーを救うことが出来る力も算段もあるのだから。


「アナウンスさん、さっき見せてくれた追加の技を取得する」


「承知いたしました。今あるポイント200ポイントすべてを消費して指定した技を取得します」


 ポイントを消費して新しい力を手に入れる。活力が湧いてくるのが確かに分かる。


「お前の生意気さにはうんざりするぜ。きっちり上下関係を叩き込まねえとな!」


 丹波くんは姿を消した、きっと僕に炎と同化して僕に攻撃する機会を伺っているのだろう。


「好都合だよ、今の僕にとってはそのほうが」


 息を大きく吸い込み、僕は新たな力の名前を口にする。


「コキュートス」


 言葉とともに僕の周囲に吹雪が吹き荒れる。気温が下がっていき、周囲が凍り付き始めた。


「な、なんだ。なにが起きてる!」


 丹波くんが慌てた声をあげる。彼の生み出した炎が僕の氷の嵐によって消えていったからだ。彼が形成した自分に有利なフィールドはあっという間に極寒の凍土に変わる。


「な、馬鹿な! お前、なにをしたんだ! お前のスキルは一体なんだんだ、こんなことが出来るなんて」


 初めて丹波くんの言葉や表情に僕に対する恐怖が浮かぶ。前回彼が僕に負けた時は戸惑いはあった。だけど今回初めて彼は僕に対して怯えている。

 だけどそれもどうでもよかった、今の僕にとって彼を打ち倒すことはどうでもいい。彼を倒して和泉さんと出雲さんを倒すのが一番大事だ。


「君に僕のスキルのことをきちんと話す義理はないよ。とはいえ君の自慢の炎も今やこの通り。大人しく負けを認めるなら僕はもう君と戦う気はない」


「……なんだと?」


「これだけの力の差があるんだ、もう戦いが無駄なことは君にも分かるはず。余計な時間を僕は使いたくない」


 こんな面倒な人間の相手をするのはもう嫌だしね。


「……ふざけんじゃねえぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 僕の言葉に彼は激昂する。炎が再び勢いよく燃え上がった。


「ぶっ殺してやる! お前は俺より弱いんだ! 弱いやつは強いやつに大人しく従えばいい! 生意気な口を聞きやがって! 今そんなことを言えなくしてやる!」


 怒りにまかせた荒れ狂った炎が僕に目がけて放たれる。が、その炎が僕に届くことはない。コキュートスで生み出された氷の壁が炎を遮ったからだ。

 その後も彼は僕に向かって攻撃を続けるがそれが僕に当たることはない。僕は炎を防ぎながら彼にゆっくり歩いて近づいていった。


「く、来るなあ、来るなあ!」


 僕がゆっくり近づいてくるのを見て、彼は半狂乱になりながらも炎を生み出し続ける。その努力も無駄だけど。

 やがて僕は彼の目の前に辿りついた。


「ひい……」


 丹波くんは情けなく尻餅をつく。僕はそれを無感情に見下ろしていた。


「な、なんでだ! なんでこんなことになるんだよおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 彼の絶叫が響き渡る。この男はこの後に及んでこんな状況になっているのが分からないらしい。


「俺は強くなった! 誰も勝てないくらいに! 実際途中までこいつを追い込んでいただろう! なのにどうしてこんなことになってる! どうして俺が無様に追い込まれているんだ! こんなことはありえない! 俺は再び支配者として君臨する人間だぞおおおおおおおお!」


 うるさい……。


 彼の叫びが今の僕には心底うるさかった。それに聞いていてこいつがまったく反省していないことも分かったし……もういいか。


「な、や、やめろ! お前、やめろ!」


 僕は彼のうるさい口を塞ぐために彼自身を凍らせ始めた。もうこいつに構いたくない。


「く、くそ、くそおおおおおおおおおおおお……!」

 

 叫びは途中で途切れてしまう。僕が彼の全身を氷漬けにし終わったからだ。


「ふう」


 戦闘が終わってどっと疲れが襲ってきたけれどまだ僕にはやることがある。僕は丹波くんに捕まっていた和泉さんと出雲さんの元へと向かった。


「隠岐くん……」


 向かってくる僕に気付いたのか和泉さんが声をあげる。僕は彼女を縛っていた縄をほどいて彼女を抱きかかえる

 傷が酷い、丹波くんへの怒りがまた湧き上がってくる。


「だ、大丈夫。自分のスキルで治せるから」


 和泉さんは自分のスキルを発動する。傷や痣があっという間に治っていった。


「隠岐くん、ごめんね。私が油断してたばっかりにこんなことになっちゃって」


「いいんだよ、悪いのは和泉さんじゃないし。それに君をちゃんと助けられてよかった」


 抱きかかえた彼女の暖かさを感じながら授かったスキルに僕は感謝する、こうして願った通りに自分が大事だと思うものを守れたのだから。


 



 



 

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