第43話
「……っ!?」
体中の鈍い痛みで私は目を覚ます。
「よう、目を覚ましたか、和泉」
意識が戻って最初に耳に入ってきた声はもっとも聞きたくない男の声だった。
「丹波くん……あなた……」
気絶する前の記憶を思い返す。確か皆で探索をしていてそれで……。
私は彼とあの謎の形をしたモンスターの群に襲われたのだ。
「ひっ……!」
私は周囲を見渡して悲鳴をあげてしまう。そこには焼け焦げた死体や下半身だけの死体が転がっていたからだ。
「ああ、こいつら邪魔だったから殺したわ。お前ともう一人のチビの女はお仲間を釣るために生かしてあるが」
丹波くんは顎で指し示した先には出雲さんが縛られて転がされていた。彼女は丹波くんにも動じず、彼を睨みつけている。
「こ、こんなことをしてなにが目的なの!? 人まで殺すなんて……!」
「決まってんだろ」
丹波くんは私のほうを睨みつけ、語気を強めた。その瞳にあるのは憎悪。
「あの忌々しい隠岐の野郎に復讐するためだよ! そのためにお前を捉えるなんて真似をしたんだ! あいつはお前のことを大事に思ってるみたいだったからなあ! 実際お前は格好の餌だったぜえ! お前の名前を出したらあいつ焦ってたもんなあ!」
「……! そんな……そんなことのためにこんなことをしたの? なんてくだらない! 関係のない人達まで殺すなんて……!」
丹波くんのあまりに身勝手な言葉を聞いて私は思わず叫んでいた。彼は狂っているとしか言いようがなかった。自分のエゴのために他人まで殺すなんて常軌を逸している。
「ああ、くだらねえだと?」
私の発言に苛立ったのか彼がこちらへ歩いてくる。側に来ると彼は私の髪を掴んで体を持ち上げた。
「痛っ……」
「くだらなくねえよ。これは正当な行為だ、丹波みたいな人間が俺の立場をむちゃくちゃにしたことへの正しい報復さ。あいつ今学校でも評判いいらしいじゃん。なにそれ、むかつくんですけど。俺が苦しんでる間にあいつが幸福なのとか許せねえよ。だから分からせてやるのさ、あいつに。俺が支配者だと、そしてお前のような人間は一生俺のような人間に使われて生きるんだってな」
本当に身勝手な人間……! 心の底から私は嫌悪感を覚えた。
「なんだ、その目は……お前も教育が必要なようだな」
私が睨み付けていたのが彼の癇に障ったらしい。彼は拳を振り上げて私を殴ろうとした。
「みっともないですよ、あなた」
無感情な声が響く、出雲さんのものだ。
「なんだぁ……?」
「一度負けたくせにいつまでも丹波さんを執拗に追い回すようなことをして。その執着は人として正直気持ち悪いです、もっと別の方向に向けられなかったのですか? 本当に情けない」
この上ない軽蔑を込められた出雲さんの言葉を聞いた丹波くんは彼女の元へ行き、思い切り顔を踏みつけた。踏みつけられた彼女の顔が地面に打ちつけられる。
「出雲さん!」
「……っ!」
「……決めた、お前も隠岐を潰した後に始末する。てめぇはあの忌々しい女の仲間だから生かしてただけだしな」
丹波くんは冷たく言い放ち、私達に背を向けた。
「さあ、速く来いよ、隠岐。お前をぶっ潰して俺はすべてを取り戻すんだ!」
狂気に支配された男の声がダンジョンに響き渡った。
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