第42話
「えっ……?」
岩代さんが言ったことに僕は凍り付く。出雲さんと連絡が取れなくなったって……それってつまり。
「和泉さんは……」
僕の質問に岩代さんは首を振る。どうやら僕の最悪の予想は当たってしまったらしい。
「彼女とも連絡がとれん、出雲のスキルがあれば絶対に連絡を取ってくるはずだからおそらく探索に参加しているパーティーでなにかあったんだろうな」
「今日和泉さん達が向かったダンジョンってどこにあるんですか?」
「池袋よ」
「助けにいきます」
僕はいてもたってもいられずソファから立ち上がり、ダンジョンに向かおうとする。
「待て」
部屋を出て行こうとする僕の腕を岩代さんが掴む。強い力で掴まれ僕は思わず彼を睨んでしまった。
「放してください。友達が危険に晒されているかもしれないのに黙っていることなんて出来ません」
「いいから落ち着け。なにも行動しないと言っているわけじゃないんだ。まだ俺も君になにも話してないだろう? 一人で突っ込んでいくのは無謀だ」
「リーダーの言う通りだよ。今の君の行動は無謀に過ぎると思うな。あたしやリーダーだってパーティーメンバーを見捨てるなんてことするわけないでしょ。助けに行くなら皆でだよ」
「……すいません、僕が間違っていました」
そうだ、なにも一人で解決しようとすることはない、今の僕のには強力してくれる人達がいるのだから。数か月前の一人ぼっちだった時とは違う。
「岩代さん、状況を教えてもらえますか?」
僕は再びソファに座り、岩代さんにどんな状況なのかを尋ねる。
「少し前に俺のスマホに出雲から連絡があったんだ。この前のモンスターと謎の炎の能力者に襲われたって連絡があってな。その後、何度かチャットでやりとりしたがある連絡を境に連絡が途絶えた」
「状況から考えるにそこで梓自身になにかあったんでしょうね」
不知火さんが冷静に状況を分析していく。岩代さんの話を聞いて僕はますます不安に駆られた。でも今は落ちつかないと。
「岩代さん、出雲さんは自分がどこにいるとか情報を残しませんでしたか?」
「いいところに気がついたな、隠岐くん。そこは出雲のやつも流石でな。ちゃんとどこにいるかは送ってきてくれてるんだ」
岩代さんはそう言って自分のスマホを差し出してくる。そこには出雲さんとのやりとりが残っていた。
「流石梓ね、転んでもただじゃ起きないか。えっーと場所は……ダンジョンの中層と下層をつなぐところで襲われたみたいね」
ダンジョンの内部は上層、中層、下層、深層に分けられている。深層には強力なモンスターがおり、探索する時は相応の強さと準備が必要だ。
「どうも休憩中に襲われたみたね。層が変わる場所はモンスターの出没が少ないからそこで休んだところをやられたみたい」
「今のところ分かっている情報はそれだけだ。俺と不知火はこの情報を元に池袋ダンジョンの中層に向かうつもりだ。もちろん君も来るだろう?」
「……はい!」
僕は岩代さんの言葉に力強く頷く。場所が分かれば後は行動あるのみだ。
方針が決まり、全員が部屋を出ようとした時、僕のスマホに着信があった。
電話をかけてきたのは……和泉さん!?
「……!?」
「どうした? 誰からの電話だ?」
「……和泉さんからです」
「このタイミングでか。とりあえず出てみろ」
「……はい」
僕は緊張しながら電話に出る。
「よう、隠岐。久しぶりじゃねえか」
電話から聞こえてきたのは聞き慣れた和泉さんの声ではなく、嫌悪している男の声だった。
*
「その声は……まさか丹波くん?」
なんでこのタイミングで彼から電話が? しかも和泉さんのスマホから。
「まさか……」
そんなことちょっと冷静になって考えれば分かることだった。
「そうだ、お前が察している通り、俺が和泉を襲って捕まえた」
僕が予想していた通りの答えを返してくるBくん。
「どうして彼女にそんな真似を……! 彼女は別に君となにも関係ないだろう! なんのつもりなんだ」
持っているスマホに向かって怒鳴る僕。様子を見ていた不知火さんと岩代さんが驚いていた。
「和泉は関係ない? ばーか、大ありだよ。だって現にお前が焦ってるじゃん。お前を釣るためにあの女は捕まえたんだ、ここまで分かりやすい反応してくれてありがとよ。やっぱ正解だったぜ」
丹波くんの下卑た笑い声がスマホから聞こえる。怒りで握り潰してしまいそうになるのを僕は必死に堪えていた。
「……君が本当に用があるのは僕なのか?」
「そうだよ、俺のすべてを奪ったお前に復讐しようと思ってな。手始めにこの状況を作り出したかった。そして次の段階はお前自らに動いてもらう」
「……なにを望んでる?」
「……俺と戦え、もう一度だ。お前が俺より上だということはありえないというのをお前に分からせてやる。今から池袋のダンジョンに来い、そこでお前を待っている。場所は和泉と一緒にいた女が送った場所だ。もしお前が来なかったら和泉は殺すからな。じゃあ……楽しみにしてるぜ」
電話口で高笑いを響かせながら丹波くんは電話を切った。
「……」
「まさか犯人自ら電話をかけてくるとはね、まあ調べる手間が省けたのはいいことだ。もしかして今の電話ってこの前君と戦ったあの男から?」
「……はい、やつの目的は僕への復讐でした」
「うわ、逆恨みもここまでくると面倒だな、本当に執念深い」
不知火さんが顔をしかめる。僕も彼のしつこさには苛立ちを通りこして呆れていた。
「でもこれであたしも遠慮なく戦える」
「不知火さん、彼の目的は僕です。彼は僕が倒します。以前倒しているから彼を倒すのは容易なはずです」
「一人でかっこつけるのはなしだよ~、第一」
不知火さんが僕の鼻に人差し指を向ける。顔は笑っているが僕は内心寒気を覚えていた。
「親友の梓に手を出されてあたしが黙っているわけないだろ。あの男は絶対ただでは済まさない。いいよね、リーダー」
不知火さんは岩代さんに確認を取る。
「ああ、今回は好きにしていい。俺もパーティーメンバーに手を出したやつをおとなしく見逃すほど人は出来ていないからな。あの男には遠慮しない」
「決まりだね、それじゃ行こっか」
この二人も相当頭に来ていたことを僕は理解した。同時にとても頼もしいと思ってしまった。
「……二人共、お願いします。和泉さんを助けるのに強力してください」
「もちろん。梓も和泉さんもまとめて助けるよ、ねっ、リーダー」
「ああ、いくぞ」
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