第41話
丹波くんと僕がやりあってから少し経ったある日、僕は久しぶりにギルド本部へやって来ていた。なんとなく来たくなったというだけなんだけど。
あの丹波くんの一件以来、僕の周囲の環境はよくなっていた。学校では彼に絡まれたいた人間から感謝され、彼がいなくなったおかげもあるだろうけど僕に話かける人も増えた。探索者として行動していると同業者の知り合いも増えたし、本当に僕の人生はスキルが開花してからいい方向に向かっている。数か月前の僕にこんなことを言っても信じなかっただろうけど。
「あれ、あれは和泉さんと出雲さん?」
天の双剣の部屋の近くまできた時、和泉さんと出雲さんが一緒にこちらに歩いてくるのが見えた。
「あ、隠岐くんも来てたんだ」
こちらに気付いた出雲さんがにこやかに笑いながら挨拶をしてくる。うん、とても可愛い。可愛いし気さくな性格だから皆から好かれるのも分かるなあ。
「うん、今日はなんの用事もなかったから。和泉さんは今からどこかへ行くの?」
「ああ、うん。ちょっと他のパーティに助けを求められて。どうも私と出雲さんのスキルが必要みたいで助けて欲しいって言われててさ」
和泉さんと出雲さんのスキルは非常に珍しいものだ。時々他のパーティーからこんなふうに探索に強力して欲しいと依頼が来る。探索者がパーティーに所属した場合、基本的に一つの場所に所属するがこうやって強力の要請があれば助っ人として探索に参加することも出来る。もちろんその際は助っ人を出してくれたパーティーにお金を出さないといけないけど。
「そっか、頑張ってね」
「うん、今日行くダンジョンはランクBのダンジョンだから無茶をしなければ大丈夫だよ」
「ランクBで大丈夫って言っちゃうのはなかなかだと思う」
天の双剣が不知火さんみたいに強い人が所属していて基本的にランクA以上のダンジョンを探索しているからだろうか、それに慣れた和泉さんはあまり怖がってはいないけどランクBのモンスターだって普通の人には強敵なのだ。
「油断はしないでね。この前の謎のモンスターの件もありますし」
「うん、そこは十分注意してる。あのモンスターについては結局なにも分かってないんだよね」
「……そうだね」
秋葉原のダンジョンで遭遇したあの謎のモンスターに関してはまだ分からないことが多い。ただ今までのモンスターにあんなやつはいないということは分かったようだ。
「無茶はしないよ、危なくなったらちゃんと引き返すし。それに梓ちゃんもいるしね」
最近和泉さんは出雲さんのことを梓ちゃんと呼ぶようになった。どうも二人の仲が深まるようなことがあったらしい。まあ和泉さんに親しい友人が増えるのはいいことだと思う。
「隠岐さん、大丈夫です。本当にやばいことがあったらリーダーにも連絡します。私のスキルがあればすぐに連絡がつきますしね」
確かに出雲さんのスキルなら万が一のことがあってもダンジョンの外の相手でもスマホで連絡が取れるからあまり心配することもないかな。
「分かりました。和泉さんのことをお願いしますね、出雲さん」
「任せておいてください」
探索に向かう二人を見送って僕はパーティーの部屋へと向かった。
*
「おっ。隠岐くん、用事がないのにここに来るのも珍しいね」
天の双剣の部屋に行くと不知火さんが一人でいた。ソファに寝転がって漫画を呼んでいる。確かに僕が用事がないのにここに来ることはあんまりないからこう言われるのも仕方ないかもしれない。不知火さん達と遊ぶ時は外で遊んでるし、ここにはギルドで依頼を受けたり、パーティーメンバーで探索に行く時にしか来ていないから。
「不知火さんは出雲さんが受けた強力要請は受けなかったんですか?」
「ああ、うん。今回は純粋にダンジョンの探索がメインだから私みたいな戦闘向きのスキルよりも梓や和泉ちゃんのような補助スキル持ちに声をかけたみたいよ。私は今日は予定がないからゆっくりしてる。そっちも似たような感じかな?」
「ええ、僕も久しぶりに予定が空いたからここに来ました」
「じゃあお互いあぶれたもの同士だね」
不知火さんの言葉に僕は笑いながら彼女の目の前にあるソファに座る。彼女は起き上がって僕のほうへ向き直った。
「ん~、二人でこうして話すのもなんだか久しぶりな感じだね」
「言われてみればそうですね」
パーティーに加入してからはメンバーの皆と一緒に行動していたから不知火さんとこうして二人きりで話すのも久しぶりだ。
「……」
「? どうしたんですか? こっちをじっと見て」
「ねえ、前も聞いたけどさ。和泉ちゃんと君って本当に付き合ってないの」
「ぶっ!? ど、どうしてそうなるんですか!?」
「いやだって君、和泉ちゃん明らかに君のこと意識してるでしょ」
「そ、そんなわけないでしょう。僕らはあくまでいい友人関係です、それ以上でもそれ以下でもありません」
僕は不知火さんの言葉を力強く否定する。和泉さんのことは好きだけどそれは友人としてだ。それに、
「僕みたいな内気な人間を好きになるなんてありえませんって。もっと頼りがいのある男性ならいくらでもいるし」
彼女自体学校でもギルドでも様々な人から好かれている人間だ。僕が多少自身を付けたといっても所詮は根暗、僕以外にいい人なんていくらでもいるから彼女が恋愛感情を持っているなんてありえない。
僕の発言を聞いていた不知火さんは目を見開いて驚いていた。
「うわ……ねえ、隠岐くん、それ本気で言ってる?」
「ええ、本気ですけど」
「……これは重傷かも。和泉ちゃんも苦労するな……」
額に手を当てて嘆くような発現をする不知火さん、僕はなにかまずい発現でもしたかな?
「それはなにが問題か分かっていない顔だねえ。まあ、いいや。あたしがとやかく言うことじゃないし。この話はもうおしまい」
少し呆れた顔をしながら不知火さんはそう言って話題を切り替えてくれた。僕としてはそれはありがたかったけど彼女が呆れている理由はついに分からなかった。
それからしばらく僕と不知火さんは他愛のない話で盛り上がった。和やかな雰囲気が室内に満ちていた時、部屋のドアが開け放たれた。
「リーダー、そんなに慌ててどうしたの?」
扉を開けたのは岩代さんだった。とても焦っている様子だったので不知火さんがその様子を怪訝に思って尋ねる。
「出雲と……連絡がとれなくなった」
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