第40話
どうしてこんなことになったのだろう?
今私ーー和泉神楽の目の前には出雲さんが座っている。彼女は美味しそうにハンバーガーを頬張っていた。
「んぐ、んぐ。やっぱりジャンクフードは定期的に摂取したくなりますね。この味がたまりません」
満足そうな表情でハンバーガーにかぶりついていく。普段の気怠そうな彼女からは想像できないような顔だ。隠岐くんがこの出雲さんを見たらきっとびっくりするだろう。
「和泉さん、食べないんですか? 一口も食べてないみたいですけど」
食事に手を付けていない私を見て出雲さんが尋ねてくる。普段と違う彼女の様子が珍しくてつい観察してしまっていた。
「いえ、ちゃんと食べます」
私は頼んでいたセットのハンバーガーを一口食べる。出雲さんが言うように確かにおいしかった。
(それにしてもこんなふうに偶然出雲さんに会うとは思わなかったな)
私はこんなふうに珍しい組み合わせで食事をすることになった経緯を思い返していたーー。
*
ある休日のこと、この日は久しぶりになんの予定も入っていない日だった。隠岐くんと一緒に探索者になってから休日もギルドの関係の予定が入っていたりで空くことがあまりなかったのだ。
「せっかくだからちょっと買い物でも行こうかな」
なにか買おうと思っていたわけではないけどなんとなく外に出たい気分になった私は当てもなく街をふらついていた。
そんな時だ、見知った顔に遭遇したのは。
「あれ? 出雲さん?」
「おや、和泉さんじゃないですか、こんなふうに会うとは奇遇ですね」
珍しいことに出雲さんと遭遇したのだ。彼女はほぼ引きこもりのような生活を送っていてギルドの本部からもほとんど出ることはない。
不知火さんによると部屋でゲームをしたり、パソコンとかをいじっていたりするらしい。もっと外に出たらいいのにと彼女は言っていた。ちなみに隠岐くんとオンラインゲームで一緒に遊んでいたこともあると不知火さんから報告があった、私はそういったものはやらないからちょっと羨ましいと思ってしまったのは秘密だ。
「出雲さんこそ外に出てるなんて珍しいですね。普段はギルド本部で引き込もってるのに。今日はなにか外出しないと行けない用事でもあるんですか?」
「いえ、単純に気分転換のために外で食事をしにきただけです。私でも外に出たい時はありますよ」
どうやらこっちが深く考え過ぎていたらしい。
「ふふ、私もそんな感じです。理由まで似ているのは本当に偶然ですね」
「まったくです。和泉さんはしっかりしてますからそんな理由で行動されるのは意外でした」
「? そんなふうに見えてました?」
「はい。とても落ちついた方だなと。なので今の話は新鮮でした」
「あはは」
そんなふうに見えていたんだな、私。結構迷ったりしていることも多いんだけど。
ぐうぅ~。
「~~!?」
唐突になったお腹に私は羞恥心に駆られる。
「……よかったら一緒に昼食を食べませんか? 近くのハンバーガー屋に行こうと思っていたので嫌でないのなら」
時間を確認するとお昼を過ぎていた、昼食をとるのに言い時間だ。
「はい、お願いします」
私は和泉さんの申し出を受け入れ、彼女と一緒にハンバーガー屋で昼食をとることになったのだった。
*
そして時は現在へと戻る。
私は自分のハンバーガーを頬張りながら出雲さんを観察する。相変わらず美味しそうに頼んだハンバーガーのセットを食べていた。
なんというか……とても和む。
彼女は体格が小柄で可愛い顔立ちをしているのもあって美味しそうに食べているのをみるととても癒やされる。本人に直接言うと嫌がられるだろうけど。
「さっきから私のほうをじっと見てどうかしましたか? 私の顔になにかついてます?」
「いえっ、なにもついてませんよ……!? なんというか普段見れない感情が表に出ている出雲さんが見れたのでつい眺めてしまって……」
「……私普段そんなに無感情に見えますかね?」
「無感情と言うか気怠そうに見えますね」
「そう……ですか……」
少し落ち込んだ様子になってしまった。本人も気にしていたのか。
「……楓からもよく言われるんですよね、もっと楽しそうにしたらいいのにって。どうも感情を素直に表現するのは苦手です」
「彼女はちょっと率直過ぎる気がしますけど……ああなる必要はないと思います。出雲さんには彼女にはないところがありますし」
不知火さんと比べるのはちょっと違う気がする……誰もがあんな感じだったら逆に大変になりそうだ。
「ふふ、ありがとうございます。楓と自分をよく比較してしまって。よくないことだとは思っているのですが」
あんな人がいたら比較してしまうのは無理もないだろう、接していて思ったけど出雲さんは自分に自信がない。私はそういったところで彼女に親近感を覚えていた。
「似ていますね、私達」
「似ているとは?」
「自分に自信がないところです。さっき出雲さんは私のことをしっかりしているっていいましたけどそうしないと人から評価されないんじゃないかって思っているからそうしているだけです」
そう私は決して隠岐くんのようにきちんとした意思を持って行動している人間ではない。探索者になったのも彼についていきたかったからだし。探索者として行動するようになって少しは自分の力を肯定できるようになったけど根本を変えるには至っていないし。
「……なるほど。ふふ、そういった意味では私達は似ていますね」
出雲さんがくすくす笑う、それにつられて私も軽く笑った。
「それでも前を向いていくしかないんですけどね。お互い大変ですけど頑張りましょう」
出雲さんの言葉に私は頷く。不思議な一体感がこの時の私達にはあった。
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