第37話

「ああ、お前と俺がどっちが強いかだと?」


 丹波くんは僕の提案に不快感を隠そうともしない。


「ふざけんじゃねえぞ、俺とお前のどっちが強いかなんて分かりきったことじゃねえか。なんで俺がそんなことに付き合わないといけないんだ」


 やっぱりこう言ってくるか、そりゃ自分より弱いと思ってる人間にどっちが強いかはっきりさせようなんて言われたら不快なのは当たり前だよね。


 だったら相手が引けないようにしよう。


「怖いの?」


「ああ?」


 僕の一言に丹波くんが分かりやすく反応する。よし、いい感じだ。やっぱり彼のような性格の人間はこういった挑発には弱いみたい。


「そういえば君、今噂になってるけどあの時こっぴどくやられたせいで取り巻きにも見限られたんだってね。今日彼らが君の周りにいないのはそのせい?」


「てめえ……」


 僕の煽るような言葉に丹波くんの額に青筋が浮かぶ、このことは彼にとって触れられたくなかったことらしい。


「ふふ、前は威勢よくしてたけど取り巻きもいないのにそんなことをしてても痛い人間にしか見えないよね。ああ、僕のさっきの提案を受けないのももう負けて状況が酷くなるのが嫌だからなのかな?」


「……ぶっ殺してやる」


 僕の言葉に丹波くんの僕に対する敵意がより大きくなったのを感じる。


「お前絶対許さねえ、俺がお前の提案にびびってるだと?」


「だったらどうして僕の提案を受けないの? もし君がちゃんと強かったらこの提案を受けてもまったく問題ないでしょ」


「……上等だよ、お前の提案に乗ってやる。俺が上だってことをはっきりとさせてやる」


 よし、釣れた。


「ありがとう、やりあうのにいい場所を知ってるんだ。そこで思い切りやり合おう。場所は後で伝える」


「やり合おうだと……違う、お前が俺に一方的に蹂躙されるだけだ」


 丹波くんはそう言って背を向けて去っていく。一色即発の雰囲気があったから周囲の人は固唾を呑んで見守っていたけど丹波くんが去っていったらあっさりとはけていった。


「……はあ」


 僕は天を仰いで溜息を付く。勝負に負ける気はなかったが結局こうなってしまったことに暗い気持ちになってしまった。



 数日後。


 僕はギルド本部の訓練場にやってきていた。目的はもちろん丹波くんとの決闘だ。目の前にはBくんがこちらを睨みつけながら立っている。


「それじゃ二人とも用意はいい?」


 今回、なにかあった時のために不知火さんに僕達の勝負を見届けてもらうことにした。丹波くんは自分を叩きのめした彼女を見たとき怯えていたけど。


「ねえ、隠岐くん」


 不安そうに和泉さんが僕に声をかけてくる。心配だからとここに来てくれたのだ。


「負けることはないと思うけど……気をつけてね」


「うん、ありがとう」


 小声で耳打ちしてくる和泉さんに僕は感謝の気持ちを伝える。自分の心配をしてくれる人がいるのは本当にありがたい。

 和泉さんは僕に伝えたいことを伝え終えたのか訓練場から去っていった。


「隠岐くん話は終わった?」


「はい、待っていただいてすいません。僕はいつでも戦う用意は出来ています」


「俺もだ」


 丹波くんの怒りに満ちた視線が僕に突き刺さる。しかし今の僕は彼の視線が怖くはない。


「スキルは使ってもいいけど相手を殺したら駄目よ。もしそれを破りそうな場合は私が二人を止める、いいね」


「はい」


「好きにしろ」


 僕と丹波くんは不知火さんの言葉に了承の意を示す。舞台は整った。


「それじゃ、初めて」


「お前に描くの違いを教えてやる」


 丹波くんの周りに炎が発生する。炎は僕を飲み込もうと獰猛な蛇のように猛りながら僕へと向かってきた。


「追加効果発動スキルキャンセラー」


 僕へと向かって猛っていた炎が一瞬で消える。


「なんだと……!?」


 丹波くんの顔が驚愕に染まる。自分の自慢のスキルが破られたのだから当然か。


「なんだ、お前。なにをした……!」


 丹波くんが困惑している隙に僕は彼の懐へと入り込んで、右ストレートの拳を放った。放った拳は丹波くんの鳩尾に直撃し、彼はその場に崩れ落ちる。


「ごほっ、ごほっ……。な……!? 馬鹿な……!?」


 咳き込みながら彼は起きたことをまだきちんと受け止め切れていないのか驚きの言葉を口にする。


「なんでお前なんかに一撃をもらって……」


「今ので分かったでしょう。君と僕には実力差があることが。大人しく降参して欲しい」


「……っ!? ふざけるなあああああああああああああ!!」


 僕の言葉に丹波くんは怒り、炎を放つ。しかし、その炎が僕に当たることはない。僕がすべてスキルキャンセラーの力で消しているからだ。


「な、なんでだ! なんでお前に炎の攻撃が当たらないんだ!」


 僕がスキルキャンセラーで炎を消しているのが余程衝撃を受けたのかBくんが叫ぶ。


「特別なことはしていない。僕のスキルの力のおかげだよ」


「スキルだと……お前はスキルが使えないんじゃなかったのか!?」


「ちょっと前まではそうだった。けれど今はもう違う。僕にもやっとスキルが覚醒した」


「……!?」


「な、なんでお前なんかにスキルが……」


「僕にも理由は分からない。けれど君を倒すことは出来る」


 僕は低い声で言い放ち、再び彼に攻撃を放つ。今度は彼の顔を殴り飛ばした。殴り飛ばされた彼は地面を無様に転がる。


「うう……」


 あれだけ息巻いていたのに戦ってみると僕に対してまったく手が出ない。その現実は少し悲しいものがあった。


「くそ、くそ、くそ!」


 僕に殴られたことが余程嫌だったのかBくんは悪態をつく、その瞳には憎悪が籠もっていた。


「なんでお前なんかに俺が手も足も出ないんだ! あり得ねえだろ!」


 彼は僕のスキルの詳細について知らない。僕がいきなり強くなった理由も分からないだろう。


「なんでだ、なんで……」


 取り巻きに見限られ、弱いと思っていた僕に手も足も出なかったという現実は彼を酷く打ちのめしたようだ。なんでと繰り返し呟くだけでもう戦う気力は彼には残っていなさそうだった。


「丹波くん、これで終わりだよ」


 僕はゆっくりと彼に歩みを進める。


「ひい……く、来るなあ!?」


 背を向けて僕から逃げ出す丹波くん、僕を見下していた時の傲慢な態度はもう見る影もない。


「逃がさないよ」


 僕は逃げる彼を追いかけ、すぐに追い付く。その時に見た彼の顔はひどいものだった。


「……これで君との関係も終わりだ」


 その顔を見て僕は一瞬迷ったものの彼の顎を思い切り殴り飛ばす。その一撃で地面に倒れた彼は完全に意識を失っていた。




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